角川氏一審判決「被告人供述の『矛盾』」という言葉が示す「歪んだ裁判の構図」

2026年1月22日、「五輪汚職事件」で東京地検特捜部に逮捕・起訴され、一貫して無罪を主張してきたKADOKAWA元会長・角川歴彦氏に対する一審判決が言い渡された。226日にわたって身柄拘束され、生命の危機にまで瀕した経験を綴った著書【人間の証明】の出版、人権侵害の違憲性を訴える国賠訴訟の提起など、徹底して「人質司法」と戦ってきた角川氏に対して、東京地裁(中尾佳久裁判長)が言い渡した有罪判決には愕然とした。その中で、「被告人供述の信用性」に関して「矛盾」という言葉が使われている。「同一人物の発言相互の食違い」という一般的な意味と、「共犯者らとの供述との相反」という通常とは全く異なる意味とが混在している。そこには、「有罪の結論ありき」で突き進んだ裁判所の姿勢が表れている。

「矛盾」で斬り捨てられた「被告人供述の信用性」

裁判において「被告人の供述は信用できない」と切り捨てる際に使われるのが「矛盾」という言葉だ。一般的な日本語では、「同じ人物が前に言ったことと、後に言ったことが食い違っている」或いは「発言内容と前提事実が一致しない」「発言内容と行動とが一致しない」などの場合に用いる。

「矛盾」は、論理学的にいえば「Aかつ非A」の関係、つまり片方が真であればもう片方が必ず偽になる(論理破綻している)状態を指し、一つの供述の中で前後の論理が通っていない場合(自己矛盾)や、供述と客観的事実(前提事実や帰結となる事実等)とが両立しない場合に使われる。

「矛盾している」というのは、同一人物の言動自体に対する評価において信用性を否定する方向で決定的に重要な要素となる。刑訴法上も、ある人物の供述が証拠とされているときに、同じ人物がそれと異なる供述をしていれば、「信用性を争う証拠」にすることができるとされているのも(328条)、信用性評価において「自己矛盾」は無視できないからだ。

一方、特定の人物の供述が、他の人物の供述と異なる場合は、供述の「対立」「相反」であって、「矛盾」ではない。論理的に両立しないのではなく、「記憶の差異」「立場の違いによる認識の相違」「意図的な虚偽」等によって食い違っている状態にすぎないからである。したがって、実務上、通常このような場合は、供述の「不一致」「相反」「対立」などと表現する。このような場合、どちらの話が正しいのかを、供述内容自体や関係証拠との整合性などから慎重に検討し、判断するのが裁判の事実認定における重要な要素だ。

角川氏に対する判決では、被告人である角川氏の「供述の信用性」について、以下のように述べ、「信用することができない」との結論を導いている。(太字と(ア)~(オ)は、筆者が挿入)

(1) 被告人は、平成26年に常務会で東京2020大会のスポンサーに立候補することを承認した後は、決裁権限がなく、報告ラインにもいなかったため、スポンサー案件について報告を受けておらず、コモンズ2への支払の件についても報告を受けたことはなかった、スポンサー案件の交渉に高橋理事や深見が関与していることは知らず、本件で検察官の事情聴取を受けるまで、高橋理事がみなし公務員に当たることは知らなかったし、深見のコモンズ2という会社も知らず、KADOKAWAがコモンズ2にコンサルタント料を支払うことも知らなかった旨供述する。

(2)しかしながら、スポンサー案件について報告を受けていないという点は、芳原証言や馬庭証言と大きく矛盾する(ア)内容である。被告人は、10月報告や、その頃、深見又は高橋理事について何か聞かされたかについて「記憶にはない」旨述べるが、10月報告の内容が、通常とは異なる特異な内容であることからみて、全く「記憶がない」というのも不自然である。
また、被告人は、4月4日会談及び5月19日会食について、高橋理事が出席することは知らず、出席していたとの認識もなかったかのような供述をする。しかし、高橋理事が出席することを伝えている旨の芳原証言や馬庭証言と矛盾する(イ)上、被告人のスケジュール表を見ると、各日程には「五輪森・高橋、講談社野間」、「五輪森委員長・高橋、コモンズ2 深見、講談社野間、芳原」との記載がある上、4月4日会談後は高橋理事や深見らとカフェで打合せもしており、5月19日会食では、講談社への不満を露わにする森会長を高橋理事が取りなすという相当に印象深い出来事があったにもかかわらず、被告人において、高橋理事が出席することを知らず、当日出席していたことも認識していなかったとは考え難い。そもそも、4月4日会談及び5月19日会食は、KADOKAWAが高橋理事の助力を得ながら、講談社との 2 社協賛でスポンサーになる話を進める中で、出版業界、特に講談社への悪感情を抱いている森会長から2社協賛の同意を引き出すことに主眼があり、高橋理事の強い働きかけにより実現したものである。そうだとすると、KADOKAWAの代表としてその会談及び会食に参加する被告人が、高橋理事の存在や役割等について全く知らされていないというのは、余りに不自然であるし、捜査段階では、4月4日会談及び5月19日会食について高橋理事に挨拶に行くためなどと述べ、その会談や会食前に高橋理事を知っていたことを前提とする供述をしていたこととも矛盾する(ウ)。このように、4月4日会談及び5月19日会食において、高橋理事が出席することを知らず、実際に出席していたことも認識していなかった旨の被告人の供述は、不自然かつ不合理というほかない。
さらに、被告人は、本件打合せについても、文化オリンピックに関する話のほかに、東京2020大会のスポンサーのお金の流れについて馬庭から説明を受けたことはない旨、N証言やT秘書の証言と矛盾する(エ)供述をしている。

(3) このように、被告人の供述は、芳原、馬庭、N氏及びT秘書のいずれの証言とも矛盾し(オ)、曖昧かつ不自然、不合理な内容を述べるものであって、信用することができない。

「矛盾」という言葉の使い方

この中に、「矛盾」という言葉が5回出てくる。(ウ)は、被告人の公判供述と捜査段階の供述との関係で、同じ人物の供述が前後で食い違っているという本来の「矛盾」の趣旨だが、一方で(ア)(イ)(エ)(オ)は、共犯者、関係者など、被告人以外の人物との供述との関係であり、本来は「対立」「相反」と表現すべきであり一般的な意味の「矛盾」とは異なる。

「矛盾」という言葉を、一般的な日本語の意味で用いる一方で、あえて、それとは異なる意味で用いているのは、単なる語彙力の問題でも、「誤記」や「勘違い」でもなく、裁判所の「思考の枠組み」そのものによるものだ。(ア)(イ)(エ)(オ)で、「共犯者や関係者の供述との相反」なのに、(ウ)と同様に「矛盾」という言葉を用いているのは、以下のような裁判所の思考の枠組みが前提となって生じたものと考えられる。

  • 共犯者らの証言は、最初から「絶対的な正解」であり、客観的事実であるかのように固定。
  • その正解と一致しない被告人の供述は、「論理的破綻」と同様に「誤り」と評価。

判決が、この「被告人供述の信用性」の判断に先立って、共犯者、関係者の供述が「絶対的に信用できる」「事実であることが客観的に明らか」という判断と根拠を示し、客観的事実としても認定しているのであれば、それと相反する被告人供述を「矛盾」と表現することも、理解できないわけではない。

しかし、判決を見る限り、それとは真逆である。

共犯者、関係者4名の証言の信用性の評価

芳原氏、馬庭氏、N氏、T秘書の証言について、弁護人が様々な根拠を示して信用性を否定する主張をしているのに対して、判決は、それらの弁護人主張を排斥し、4名の信用性を認めている。しかし、その理由は、客観的な裏付けや絶対的な根拠があるというものではなく、微妙な主観的判断であることは、判決からも明らかだ。

共犯者として起訴され、公判で事実を全面的に認め有罪判決が確定している芳原氏・馬庭氏のうち、芳原氏については、弁護人は、

「取調官から繰り返し追及され、録音内容やメールを示されているうちに、取調官の示唆していることが真実であり、それに適合するように供述を変える必要があると思い込み、変容した記憶に基づき証言した疑いが濃厚」

と主張した。これに対して、判決は、

「取調官から資料を示されて記憶を喚起し、その後も、自分の弁護人とともに時系列を整理して記憶喚起すること等を繰り返したことなどから、当初の供述と公判証言では異なっているところがある旨説明している」

と認めた上で、

「芳原が取調官の示唆によって変容した記憶に基づき、ありもしない事柄を証言しているとはみられない。」

として、

「芳原証言の重要部分についての信用性は肯定することができる」

と結論づけている。

馬庭氏の証言の信用性について、判決は、

「相応に具体的な証言をしており、その内容に不自然と思われるところはない。」

としているが、馬庭氏が、贈賄の共謀があったとする「本件打合せ」(平成30年12月17日にKADOKAWA社内で行われた会議。馬庭氏も出席していたこの会議で、角川氏にコモンズ2への支払のスキーム等について説明した、というのがN氏の証言=筆者注)においてN氏が角川氏に説明したことについて「記憶がない」と証言していることについて、

「本件打合せに関する馬庭証言は信用できないものの、これにより馬庭証言全体の信用性が直ちに揺らぐことにはならない」

としている。

N氏は、本件打合せの前に資料を準備した状況やその資料の内容、本件打合せ時の馬庭氏と被告人とのやり取りや被告人からの問いかけに対する馬庭氏の反応等について具体的に証言しているが、弁護人は、「N氏のメールや印刷履歴等からすると、そもそもN氏が本件打合せの場に同席した事実はない」と主張した。

これに対して、判決は、本件打合せに際しN氏が作成したとする説明資料やそのデータが存在せず、そのような意味で客観的証拠の裏付けを欠くことは認めた上、

「虚偽証言をする動機はうかがわれない上、Nが、本件打合せの場に同席すらしていないのに、その場にいたとして、その状況を含めて虚偽の事実を作出したと見るのは、いかにも無理がある。Nが殊更虚偽の証言をして被告人を陥れようとしたとは考えられない。」

と述べて、N氏証言は信用することができると結論づけている。

T秘書についても、本件打合せに同席した際の状況について、一部N氏の証言に沿う証言を行っているが、判決は、

「本件打合せにNがいたかどうか記憶が曖昧である、被告人の問いかけに馬庭がどう答えたのか記憶がないと述べるなど、本件打合せに関する記憶に欠落あるいは曖昧なところがある」

としている一方で、被告人を尊敬していると述べていることなどから、

「殊更虚偽の証言をして被告人を陥れる理由は見当たらない。」

として、証言の信用性を認めている。

「検察側のシナリオ=正解」、「被告人供述=排除」の前提

以上のとおり、共犯者と関係者の4人の証言は、それぞれ信用性に関して多くの問題があることは判決も認めており、信用性を認めているのも、最終的には、「一部は信用できないがそれ以外は信用できる」「作り話をしているとは思えない」などの、微妙な判断に基づくものであり、「絶対的に信用できる」などと言えるものではない。

だとすれば、それらと被告人供述が「対立」「相反」する場合、それら証言の信用性と被告人の供述の信用性とを比較し、いずれが信用できるかを判断するのが当然だ。

ところが、判決は、被告人の供述が4人の証言と「相反」していることを「矛盾」と表現して、それ自体が信用性を否定する決定的な要素であるかのように述べている。

その上で、被告人供述の内容について、「不自然」「不合理」などと述べて信用性を否定しているのであるが、ここにも、共犯者らの証言に基づく検察のシナリオを「絶対的な正解」として固定する姿勢が表れている。

被告人供述が「不自然」「不合理」との評価の前提とされているのは、上記の4人の供述の都合のよいところだけで組み立てられた「検察のシナリオ」だ。そこでは、被告人の角川氏が公判で述べたことも、それに沿う関係者供述も全て無視されている。それが端的に表れているのがT秘書の証言との関係だ。

角川氏は、オリンピックのスポンサーになることには、当初話が持ち上がった時点は相応の関心を持っていたが、その後文化オリンピックに熱意をもつようになり、オリンピックへの関心は薄れていったと述べている。

2018 年頃の角川氏のオリンピックに対する関心の程度については、当時秘書だったT秘書が、「2016年頃は、KADOKAWA社が国家的イベントに協力できるとしてオリンピックスポンサーになることに関心が高かったが、スポンサー活動は制約が多く事業上の利益が見込めないことが判明するにつれ、角川さんのオリンピックスポンサーになることへの関心は、2018年頃には薄れていった」と証言している。

オリンピックのスポンサーになることへの関心の程度は、被告人供述の信用性の判断において重要だったはずだが、その点について、判決は、角川氏自身が公判で述べたことも、T秘書の証言も無視している。

一方で、上記のとおり、T秘書の証言のうち、「本件打合せ」の場面に関するN氏の証言に沿う部分だけを切り取り、その証言との「矛盾」を被告人供述の信用性を否定する根拠にしている。

本来、裁判所の役割は、検察官と被告人・弁護人の主張の双方を公平に客観的に見極めることにあるはずだ。ところが、今回の判決は、その役割を放棄し、「検察側のシナリオ=正解」という前提に立ち、それと「相反」する被告人の供述を、最初から「排除すべきもの」として扱っているのである。

多くの人は、裁判所が「厳密な論理」に基づいて判断を下していると信じている。しかし、この判決では、その裁判所の判断を表現する「言葉」によって、実は、最初から公正な判断を放棄していることがあからさまに示されているのである。

「人質司法」がもたらした公判での争点の限定

もう一つ、今回の判決に強い違和感を持ったのは、角川氏が贈賄罪を全面的に争っている事件にしては、判決で判断の対象とされた争点があまりに狭いことだ。その背景に、226日に及ぶ勾留という「人質司法」が影響しているように思える。

贈収賄罪は対向犯であり、収賄・贈賄双方に犯罪が成立する場合でなければ、いずれの犯罪も成立しない。

角川氏に贈賄罪が成立するのであれば、収賄側とされた高橋氏、深見氏の側も犯罪が成立することになる。逆に言えば、収賄側の犯罪が否定されれば、贈賄罪の成立も否定される。

この事件の贈収賄罪の成否については、むしろ、高橋理事・収賄側について多くの問題がある。受託収賄罪の「請託」や「便宜供与」が、組織委員会理事の権限に関するものか、電通元専務としての民間企業電通への影響力に関するものかがまず問題になる。請託や便宜供与が、電通という民間会社の業務に関するものではなく「組織委員会の理事の権限」に関するものでなければならない。

それに加え、KADOKAWAからのコンサルタント料は、高橋氏ではなく深見氏が代表を務める「コモンズ2」に支払われており、それだけでは「みなし公務員」の高橋氏に金銭が供与されたとは言えないので、「コモンズ2」が賄賂の受け皿とされ、高橋氏・深見氏の2人が、「KADOKAWA側から、組織委員会の理事の職務に関して、請託を受けて賄賂を受領する」という犯罪について共謀したことが立証されなければならない。

角川会長を贈賄罪に問うためには、こういう受託収賄罪の要件が立証され、その一つひとつについて、角川氏がそれらを認識した上で、コモンズ2に対するコンサルタント料の支払に関わったことが立証されなければならない。

これまでの五輪汚職事件の贈賄側の公判は、すべて、公訴事実を争わない「自白事件」で、検察の主張がそのまま判決の認定になり、有罪が確定しているので、贈賄側の公判では、収賄側に関する問題が公判の争点となることはなかったが、一方で、収賄側は高橋氏・深見氏ともに収賄の事実を全面的に争っており、一審公判が係属中である。

角川氏は贈賄を全面的に争っているのであるから、その公判でも、収賄者側(高橋・深見)に組織委員会の理事としての権限に基づく便宜供与の対価としての「賄賂の認識」や、それをコモンズ2で受領することの「共謀の有無」など収賄者側の成立要件が立証できなければ、法的には贈賄罪の構成要件を欠くことになるはずだ。

ところが、判決は贈賄についての共謀の有無に関する前記の4人の証言と被告人の角川氏の供述の信用性を判断しているだけだ。上記のような収賄側の問題への言及は全くなく、それらについて角川氏の認識も、全く問題とはされていない。

この点に関して、判決後の記者会見で、主任弁護人の弘中惇一郎弁護士は、角川氏が226日も勾留され、保釈を得るために、証拠を同意せざるを得ず、保釈を得るための条件をのんだことが判決に影響を及ぼしたのではないかと問われ、

「無罪主張立証の大きな妨げになるところまで譲歩するということはできないので、尋問しなくてはいけないと思った人は全部不同意を通した。同意したから裁判が決定的に不利になったわけではない」

と言いつつも、

「組織委員会とか電通とか、あるいは高橋さん深見さんといった、直接、角川さんの共謀とは結び付いてない部分は、全部同意しておさめた」

と述べた。

高齢で持病が悪化した角川氏を長期勾留から解放するため保釈を優先せざるを得なかった弁護団が、贈賄の共謀以外の点に関する検察官請求証拠に同意することを余儀なくされたようであり、それが、角川氏の一審公判で、収賄側の犯罪成立要件や、それに関する角川氏の認識・犯意の点が争点とされないことにつながった可能性がある。

「人質司法」は、無実を訴え、無罪を主張しようとする被告人に主張自体を断念させる方向に強烈に働くだけでない。無罪を主張するための武器が限定されてしまうこともある。人質司法によって、保釈を得るために、争点が事実上限定され、その結果、公判の「土俵」は、検察の意図どおりの狭いものとなる。そこで現れる「行司」の裁判官が、「検察側のシナリオ=正解」という前提に立ち、それに沿う共犯者、関係者の供述を「絶対正解」として固定し、それと「相反」する被告人供述を「矛盾する」という言葉で斬り捨てる。

それは、立ち合いの前に行司が「軍配」を検察に上げているに等しい。憲法37条1項が保障する「公平な裁判所による裁判」とは到底言えないものだ。

「言葉」によって露呈した“裁判の不公正”

裁判は「言葉」により行われ、「言葉」で判断が示される。その「言葉」によって公正・公平な裁判に対する重大な疑問が生じたのが今回の判決である。

「僕の矜持が許さない」

60年の出版人生で「言葉」を何より重んじてきた角川氏が判決の認定事実について発した言葉だ。そこには、「矛盾」という粗雑な「言葉」で斬り捨てられたことへの無念も込められていたのではなかろうか。

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知事選告示直前に明らかになった大石長崎県知事の政治資金収支に関する「重大問題」

長崎県大石賢吾知事に対して、公選法違反、政治資金規正法違反に関連する事実について、2025年12月22日に送付した公開質問状(【長崎県大石知事宛て公開質問状】)に対して、期限とした同年12月29日を過ぎても大石知事側からは何の回答もないまま、現在に至っている。

一方で、この公開質問状を長崎県庁の秘書室宛てに送付した翌日の12月23日、大石賢吾後援会(以下、「後援会」)の代理人弁護士から、後援会事務所元職員のTさんの代理人の私に宛て書面が届いた。

後援会代理人書面の内容と「前提事実」の誤り

同書面は、(a)「現在、会計書類の確認、見直しを行っております。令和5年度の収支報告書が明らかな誤りを含む内容となっており、精査を要するので過去の会計データを探しています。」とした上、(b)「令和4年4月 1から令和6年11月末まで、Tさんが同後援会の事務員として経理・会計担当として稼働し同後援会の収支報告書等の作成を担当し、令和6年度までは、専らTさんが通知人のパソコンを用いて作成していたが、Tさんから、令和6年7月 3日に引渡しを受けたパソコンには会計データが保存されておらず、後援会事務所にもそれらしきものが見当たらないことから、Tさんが保有していると考えている」として、その会計データの提出を求めるものだった。

この代理人書面で、後援会の政治資金処理が(a)の状況にあることはわかったが、代理人弁護士が「会計データの提出」を求める(b)の前提に多くの誤りがあった。

後援会の会計処理にTさんが関与していた状況、Tさんが自宅待機を命じられ後援会事務所からも会計処理からも排除された状況、事務所の会計データについてTさんが認識していた状況について、以下のとおり説明し、これらについて事実確認を求めた。

(1)「令和6年11月末まで、通知人の事務員として、主に経理・会計担当として稼働されておられました。」とされているが、Tさんは、令和6年6月26日に、「元監査人」が業務終了を通告した直後に、後援会事務所から出入り禁止を言い渡され、その後、6月27日に自宅待機を命じられ、11月末で解雇されたものであり、6月26日以降は、雇用契約は継続していたものの「11月末まで稼働していた」ものではない。

(2)Tさんは、6月26日午前9時に、大石知事の希望で予定していた大阪の弁護士とのミーティングに同席することになっており、その際に必要になる可能性がある選挙会計・後援会・確認団体の収支報告書、領収書綴り、パソコンなどを後援会事務所から持ち出していたが、大石知事が同弁護士とのミーティングを直前にキャンセルし、26日の夕刻、事務所への出入禁止を命じられ、その後7月1日にTさんに自宅待機を命じる業務命令書が届き、それ以降はU氏が会計を担当されるとのことだった。7月3日には、会計責任者K氏立会いの下で、持ち出していた書類、領収書綴り、パソコンなどをU氏に返却した。その際、事務所の鍵と事務所の車の鍵は6月27日に事務所のポストへ投函し返却した。

(3)会計処理システムは、前回知事選当時の事務局長のO氏の勧めで、パソコンに会計ソフトが予め入ったものを顧問税理士のM税理士から購入したものだ。税理士は、後援会から報酬を受領して、令和4年分の選挙運動費用収支報告書を作成し、令和4年の後援会と確認団体の政治資金収支報告書及を最終的に確認している。Tさんは、会計ソフト入力を行い、税理士に毎月確認してもらっていた。

(4)しかし、令和5年4月に、令和4年の政治資金収支報告書作成等に関する報酬をM税理士に支払うことについて、大石知事が納得いかないと言い、紹介者のO氏と直接話した結果、その4年分の支払はすることになったが、大石知事の意向で令和6年3月末でM税理士との契約は終了することになった。そのために、令和5年の後援会の政治資金収支報告書はTさんが作成した。M税理士との契約の終了に伴い、TKCの会計ソフトは使用できなくなりパソコンから削除され、パソコン上は過去の会計データも閲覧できなくなった。会計データが残っていないのはそのためだ(会計データが削除されて、閲覧できなくなることは税理士から説明を受けたが、大石知事がそれを了承して税理士との契約を解除した。)この令和5年分の政治資金収支報告書は、それまで会計ソフトに記録されていた入出金データのとおり、Tさんが正確に作成し、最終的に選挙コンサルタントが確認し、修正をした上で提出したものだ。

後援会収支報告書の「実態と異なる記載」についてのTさんの認識

(5)Tさんが作成した令和4年5年の後援会の収支報告書については、当時からTさんも認識していた、令和5年の収支報告書に記載されている翌年への繰越額の約2158万円が、銀行口座の残高とは一致していないという「実態と異なる記載」があった。それには、以下のような経緯があった。

令和4年の収支報告書において大石知事からの2000万円の借入金が計上されたこととごうまなみ県議からの寄附が計上されたことによって、収支報告書の翌年度の繰越額が2286万円増額され、銀行口座の残高とは一致しなくなっていた。令和4年の収支報告書における翌年度への繰越額の決定は、税理士と選挙コンサルタント側で行っており、Tさんは関わっていない。令和5年の収支報告書は、Tさんが、令和4年の収支報告書の繰越額を前提に、その後の令和5年の政治資金の収入と支出を正確に記載したものだったが、令和4年の収支報告書の繰越額が、実態とは異なる借入金2000万円の計上のために、預金残高と一致していなかったために、令和5年の収支報告書に記載されている翌年への繰越額の約2158万円も、銀行口座の残高とは一致していなかった。

「令和5年度の収支報告書の明らかな誤り」と「2000万円」問題との関係

Tさんとしては、当初の令和4年の収支報告書で翌年への繰越額と銀行口座の残高との不一致が生じていたのは、実態を伴わない2000万円の借入金が計上されたことによるものと認識していたので、2000万円の借入金を取消す等の訂正によって、不一致は解消されたものと思っていた。

今回の通知書で「令和5年度の収支報告書が、明らかな誤りを含む内容となっている」と書かれていたので、Tさんが、公表されている訂正後の令和5年の収支報告書を改めて確認したところ、翌年への繰越額は5,472,341円と記載されており、Tさんの手元に残っている令和5年末の後援会の銀行口座の残高の6,236,111円との差額763,770円が生じていることがわかった。

代理人弁護士の書面に対して、昨年末に、上記の(1)~(4)の前提事実について確認を求めるとともに、「令和5年度の収支報告書の明らかな誤り」というのは、上記(5)の「翌年への繰越額と銀行口座の残高との不一致」だと思われ、そうであれば、原因は、主として、Tさんが会計担当を外れた後に行われた2000万円の借入金の取消し等に起因するものと考えられるので、2000万円の借入金の計上に関わった選挙コンサルタント、M税理士や、収支報告書訂正を行った弁護士等に聞いてもらうしかない。その上で、不明な点があるのであれば、Tさんとしては、自らに向けられた疑いを晴らすためにも、後援会側の「令和5年度の収支報告書の明らかな誤り」の是正に協力する意向であることを伝える書面を送付した。

今週に入り、代理人弁護士と電話で話したところ、後援会事務所側が、選挙直前で準備に忙殺されているため、事実確認が十分にできているわけではないが、現時点では、当方から確認を求めている事実について異論は出ていないようであり、「令和5年度の収支報告書の明らかな誤り」というのは、上記(5)のTさんの認識のとおり、「翌年への繰越額と銀行口座の残高との不一致」に起因するものだということだ。

代理人弁護士は、受任して間がなく、後援会関係者も、収支報告書や会計データについてこれまでの経緯を正確に把握しておらず、事実関係について十分に把握できないまま、Tさんの代理人の私宛てに書面を送付したとのことだった。後援会としての対応は、大石知事個人とは切り離して、収支報告書の明らかな誤りを是正し、適正な処理が行えるようにしていきたいとのことだった。

従前、大石知事の会見に同席していながら、架空の貸付金計上の疑惑に対して説明責任を果たさず、後援会元職員のTさんに不当な疑いをかけることに加担したり、私がTさんの代理人を受任していることを認識していながら、聴取に応じることや資料提出を要求する書面をTさんに直接配達証明で送りつけるなど、従前の大石知事側の弁護士の対応には問題があったが、今回の代理人弁護士は、当方の説明を十分に理解し真摯に対応している。以前は、大石知事自身が後援会の代表者だったが、現在は代表者ではないことから、後援会として適切な対応を行うことを意図しているものと思われる。

 公開質問状でも指摘したように、大石知事の弁解どおりなのであれば、選挙コンサルタントは、選挙運動費用収支報告書の収入欄に自己資金2000万円が記載され、ほとんど選挙費用で使い切った記載になっていることを認識し、後援会の収支報告書に2000万円の借入金を計上することが虚偽記入に当たることがわかっていたのに誤った助言をしたことになる。さらに、M税理士は、選挙運動費用収支報告書の収入欄に被疑者の自己資金2000万円が記載され、ほとんど選挙費用で支出していることを認識した上で、後援会の政治資金収支報告書に2000万円の借入金を計上したことになる。

その点について法的責任を追及するのが当然であるのに、大石知事は、2人の責任を追及する姿勢を全く見せず、一方で、会見で「政治や会計処理に詳しくない職員に後援会の会計処理を任せてしまっていた。この任命責任につきましては、代表者を務めていた私にある」などと、あたかも元職員のAさんの対応に問題があったかのように述べてきた。今回の代理人弁護士に事実確認を求め、行ったやり取りからも、Tさんの会計処理には何の問題もなく、大石知事の説明が全くの誤りであったことは、明らかである。

大石知事の政治資金について新たに明らかになった事実

このように、後援会の代理人弁護士が交代し、大石知事個人とは切り離し、政治資金収支報告書の記載について適切な処理を行おうと努力を始めたことは望ましいことだが、一方で、今回の書面のやり取り等によって、知事選の告示直前に、大石知事の政治資金、選挙資金の問題について重要な事実が明らかになったことに注目する必要がある。

第1に、令和4年分と5年分の収支報告書の2000万円の借入金の記載の訂正に関して、虚偽記入の疑いで行われた告発事件について、既に不起訴処分が行われており、検察官の捜査・処分に至る手続の中で、後援会の担当者等と担当検察官との間で正しい収支報告書の記載内容が確認されたからこそ、各年度の収支報告書の記載に関する刑事事件の捜査処理が終結したものと考えていた。ところが、令和5年度の収支報告書には明らかな誤りがあり、しかも、それは、虚偽記入の疑いで刑事事件として捜査の対象とされた2000万円の借入金の計上とその取消しに関連するものであることが明らかになった。代理人弁護士の話によると、現状でも、刑事事件で問題となった後援会の政治資金収支報告書の記載は誤っており訂正未了で「違法状態」にあることになる。しかも、Tさんが述べるように、その「誤り」の原因を作ったのは、上記のとおり、大石知事が責任を追及すべき選挙コンサルタントとM税理士である。その政治資金収支報告書の「誤り」については、捜査によって「正しい収支報告書の記載内容が明らかにされ、それに沿って訂正が行われるのが通常であり(政治資金パーティー裏金問題でも、すべてそのような処理が行われている)、その誤りが放置されたまま収支報告書虚偽記入についての刑事処分が決着することは、通常、検察官の実務としてあり得ない。

大石知事の政治資金規正法違反の不起訴処分について、Tさんは、K検事から「大石の不正の認識に関する事実」を思い出すように言われ、改めて供述し調書作成に応じる予定だったが、検察官は、そのようなTさんの聴取・供述調書作成を行わないまま、9月12日に、不起訴処分を行ったこと、その不起訴処分に対して告発人として検察審査会への申立てを行ったのに対して、事実認定上、法律適用上多くの問題がある事件であり、審査に半年程度かかるのが一般的であるにもかかわらず、12月19日に、申立てから僅か2か月半で「不起訴相当」の議決が出されたことなど、不起訴処分、検察審査会の議決には、不可解な点があった。その不起訴処分が、政治資金収支報告書の明白な誤りを是正しないまま行われたということになると、2026年2月に知事選挙が予定されていることから、行うべき捜査を尽くさないまま、拙速に不起訴処分を行った重大な疑いが生じる。

第2に、このような「後援会の収支報告書の明らかな誤り」は、目前に迫っている知事選挙の政治資金と選挙資金とを区別して処理することの重大な支障になるということである。

大石知事は、2025年10月24日の説明会見の際に、この点について、《本来個人の口座で管理をすべき選挙費用ですね、それと政治団体である後援会、そして確認団体、この3つの資金管理を同一の1つの口座で行っておりました。このため、煩雑となってしまって、結果として県民の皆様に疑念を抱かせてしまう不正確な資金管理の状況となってしまいました。》と述べ、候補者個人としての選挙費用の収支と後援会等の政治団体の収支が同一の口座で混然一体となって管理されていた、つまり、選挙資金の収支の管理があまりに杜撰だったことを認めているのである。このように、政治資金と選挙資金とが後援会の口座にまず入金され、それが、その後、振り分けられるという処理の基本的なやり方に変わりはないと考えられる。ところが、その処理の基本になる後援会の政治資金収支報告書の記載の現状に誤りがあるというのである。この状況で、今、選挙に向けての政治資金、選挙資金の流れが生じているはずである。明らかな誤りを放置したまま適正な処理が行えるはずがない。

知事選告示直前に明らかになった大石知事の政治資金収支報告書に関する「重大問題」

大石知事が再選をめざして立候補を表明している長崎知事選挙の告示が明日(1月22日)に迫っており、公開質問状で、「検察の不起訴処分により刑事責任は問われなかったとしても、重大な政治的説明責任がある」と私が指摘したにも関わらず、大石知事は、説明責任を全く果たしていない。

対立候補を僅差で破って当選した一期目の選挙で選挙収支、政治資金収支に関して重大な問題が多数表面化した大石知事だが、今回の選挙では、選挙前から、すでに適正処理が困難な状況が生じている。この状況で、「政治とカネ」の問題は決着した、と胸を張った上で選挙に臨むことなどできるはずもない。

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「現職人事部長の告発」を受けての会見で露呈した山中横浜市長の「ウソと恫喝」

1月11日、山中竹春横浜市長の不適切な振る舞いや暴言の数々を、現職人事部長の久保田淳氏が実名・顔出しで告発する記事が文春オンラインに掲載された。

山中市長は、週刊文春の報道に対して、「2026.1.11報道に対するコメント」を公表して、指摘された内容は事実無根か、言動を受けた側に非があり、市長には批判されるべきことは全くないかのように主張した。

そこで、12日の【人事部長が実名告発した「山中横浜市長パワハラ問題」、2021年市長選での「パワハラ音声」を再検証】と題する記事で、パワハラ批判に対して「相手方に叱責されて当然の非がある」という理屈を持ち出して一切自らの非を認めようとしない頑な山中氏の姿勢は2021年の時から変わっておらず、今回の久保田人事部長の実名告発に対する反論として出したコメントでも全く同様であること、山中氏のパワハラは、その人格の本質に根差すもので、本人が反省して改めることは期待できないことを指摘した。

その後、15日には、神奈川県庁で久保田氏が記者会見を行い、これを受けて、16日には、山中市長が、市政担当記者との非公式会見を行った。

ここで、人事部長の久保田氏と市長の山中氏両者の発言内容を整理して、今後、横浜市がどのような対応をとるべきかを検討したい。

久保田人事部長の記者会見での発言内容

久保田氏は、山中市長の問題発言を詳しく説明するとともに、現職人事部長でありながら市長の言動を告発するに至った経緯と理由を説明した。そして、文春記事について山中氏が出したコメントにも言及した。以下が会見での冒頭発言の概要である。

(1) (経緯)

山中市長は2 期目を迎えているが、1期目の途中からいわゆるパワーハラスメントが疑われるような行為が散見されていた。その中には、ハラスメントが疑われるだけではなく、労働基準法等に違反する疑いのある行為、市会議員や副市長の人間としての尊厳、市職員の労働者としての権利や人権を軽視した問題ある言動が見られた。

2期目を迎えて市会議員や職員との関係性も改善してくることを期待したが、むしろ悪化しており、看過できない水準に達していると考えている。そのため、公益通報という形で記者会見を含む一連の行動を起こすことにした。

今回の一連の行動はあくまでも個人としてのものではあるが、現在、市役所でハラスメント対策を所管する人事部長なので、市役所内におけるハラスメント対策にも一定の責任を負う立場にある。もちろん最終的な責任は山中市長にある。

今回の行動の目的は、横浜市長としてふさわしい人権感覚を持って、法令を遵守した、そして横浜市民や市会議員、市職員から尊敬されるような言動に改めていただくこと。市長の交代とか退陣を求めるものではない。

(2)(山中氏に対する評価と中立的調査の希望)

個人的には山中市長の知的な能力の高さ、横浜市民や子供たちに対する思いの強さ、仕事の成果に対する貪欲さ、勤勉性、清廉潔白さには畏敬の念をもっている。様々な政策分野の基本的な方向性も、1期目を経過して2期目の選挙も経たわけなので、多くの横浜市民の思いに応えていると認識をしている。

私としては、横浜市として中立性や専門性がしっかり担保された形で調査が実施され、その結果に基づいて市長の言動が適正化されるという必要な対応が進んでいくことを強く望んでいる。

私は、横浜市役所で、できれば福祉とか子供の分野で、人事系、総務系と福祉、子供の分野でやってきたので、そういうところで引き続き横浜市民に貢献させていただきたい。

(3)(市長室への出入り禁止)

通常は、課長以下は(市長室に)入れない。部長級の中でも市長室には一部しか今は入れない。基本的には入れるポジション、例えば人事部長、財政部長、報道担当部長でも、一時的もしくは永続的に市長説明のアポイントメントを取ってもらえなくなる事態がたまに発生する。市長から「出禁だ」とか言われるわけではないが、秘書部長に説明資料を入れた封筒を渡してそれでやり取りするようにとか、局長だけで説明するようにとか、何ヶ月経ってもアポイントが一切入らないことが稀ではない。それを市職員の間では「出入禁止」と言っている。

重要案件で市長にお諮りしなければいけない。でもあの部長は市長室に入れないからここには置けない、ということが各局の局長から多々寄せられ、人事異動にも支障がある。

前副市長には、重要案件であっても意図的に予定を入れさせなかった。市長の行動記録がWeb上に出ている。副市長であれば基本的に名前は出ている。前副市長は非常に少ない。

「ダチョウなんて本当にバカだから俺のアポとか取りたがって。取ってないけど」

と意図的に前副市長のアポイントは取ってないということを明確に言っている。

昨年11月14日、市長への市長室での対面での説明が認められなくなった。

秘書部長を通じて指示された書面でやり取りをせよということだったが、人事部長なので様々な案件を説明する際に、書面で行ったり来たりするのも無理。1対1でこの人はこうだとちゃんと話をしたいということで、不本意ではあったが「人事部に非があった。私が悪うございました」と書いた顛末書を、秘書部長を通じて市長に渡し、出入禁止はすぐ解除された。

市長のコメントでは私が現在も市長室での議論に参加しており、出入りができないことは一切ないとされているが、確かに出禁はずっと続いていたわけではない。顛末書を出したことで解除されて、翌週の11月 19日から対面での説明が認められたが、それ以降、人事案件の説明も含めて私の説明には全て秘書部長が同席をすることになった。理由は不明。

(4)(内部通報制度)

横浜市におけるハラスメント防止政策は人事部でやっており、ハラスメントの相談窓口としては、内部の窓口、人事課から委託をしている外部の窓口、両者を統括する統括窓口の人事課と3種類を用意している。

つまり、私がどこかに相談をしても結局は相談受付後の対応を検討する実務上の責任者は私なので、何も進まない。仮に市長の言動をコンプライアンス違反事案として扱うと仮定しても、横浜市の不正防止内部通報制度は、あくまでも「横浜市職員の公正な職務の執行及び適正な行政運営に関する規則」に基づいたものなので、一般職である本市職員の法令遵守を目的としたもので、市長が関与した行為は対象にならない。

(5)(今回の行動を決意した理由)

市政の混乱によって部下や市職員全体に負担がかかるということから、受験を控える子供もいるなど家族への影響などを考えると簡単に判断することはできない状況だったが、以下のようなことが最後の一押しとなり、今回の一連の行動を実行する決意が固まった。

12月は毎年、横浜市いじめ防止啓発月間。その中で市庁舎でも、いじめ防止に関する動画を1階のアトリウムでずっと流し続けていた。同時期に、デジタルサイネージでは「ストップカスタマーハラスメント」も流していた。

帰宅する際にこれらを見て、市長がやってることはいじめやカスハラに近く、それを止めないのはいじめとかカスハラに加担してるのと同じではないかと感じた。いじめというのは、加害者本人への憤りだけでなく、周りの傍観者がみんな助けてくれない、先生も助けてくれないことがやはり1番辛い。

市長がこれまで行ってきた「人間のクズ」「ポンコツ」「デブ」「気持ち悪い。死ねよ」などの陰口は、学校で言われたら当然いじめになる。私は人事部長なのでそれを止める立場、助ける立場。ここは逃げてはいけないのではないかと思った。

いじめから学校、横浜の子供たちを守るのが市長の責任であり、職員をパワハラとかカスハラから守るのも市長の責任。そういった中で、その行為を市長が疑われるようなことをしているのを改めていただき、市職員が安心して市民の皆様のために働ける環境を確保していくことが、私の職責でもあると思い、今回このような行動に至った。

(6)(山中市長の問題行為の内容)

外務省の方が視察に来るということで私が市長室で事前報告をした際に、

「なんでそんな大切なことをもっと早く言わないんだ!」

と怒鳴られて、書類をバンと投げられた。正直びっくりする。多分気が弱い方だと市長室に入るのが怖くなってしまう。

市長室で、ある事案について対応状況を報告した際に、

「俺との会話を録音したら許さない、お前、録音とかしてねえだろうな、これだからな」

と言われ、指で拳銃を撃つポーズをされた。その時が初めてじゃなくて、市長室に1対1でいる時に3回ぐらい銃撃ポーズをされた。

勤務時間外に市長に呼ばれたことも多々あった。3連休中で私に対する労働法令違反の深夜休日を問わぬ対応を求める業務連絡もあった。市長から私に対して深夜休日を問わない連絡というものは常態化していた。

普通は一般の職員と特別職の市長等が携帯番号を交換することはない。公用携帯というのは基本的に支給されておらず、全部私物。人事部長に着任した際、重大な事件事故、例えば本市の管理してる施設もしくは職員が何か重大な不幸な事故に巻き込まれた時などに連絡ができるように私からお願いして市長の携帯の番号を教えていただき、携帯番号を伝えた。

あくまで緊急時の対応ということだったが、その後、市長から何も緊急性がない連絡が平日の夜間深夜、土日祝日を問わずに常態化した。

市長コメントで

「当該幹部職員自身から8月10日に申し出てきて双方のメールアドレスを使ってやり取りすることに私が応じました」

と、私から私用メールで連絡をすることを申し出たように言われたが、指示されてなければ私が市長の私用メールアドレスを知るわけがない。昨年夏の3連休中の8月9日7時3分に、3連休明けの朝に資料くださいというSMSでの指示が来た。つまりその3連休中に働けということだった。その翌10日の13時42分にも携帯から電話があって、今度は、

「昨日お願いした資料をメールで送ってくれ」

と。土曜日中に作業して準備しておいて連休明けに送ろうと、市長の公用メールアドレスに送るんですねと言ったら、

「市役所のアドレスはセキュリティが低いからダメだ。職員に見られるかもしれない、情報公開の対象になっちゃうじゃん」

ということで、市長の私用メールアドレスへの送信を指示された。

(7)(自民党の横山正人元議長に対する暴言)

昨年2月5日、昨年度は国際局の担当部長だった。国際的な事業の一環ということで、大使たちの写真展を横浜で開催する際に我々が担当した。あくまでも開催の主体は高円宮妃殿下が名誉総裁を務めるステアリング・コミッティであり横浜市は主催者ではない。私と市長、当時の鈴木議長などが赤レンガ倉庫に妃殿下をお迎えし、開会セレモニーが終わった後しばし写真をご覧いただいてる間に、市長と秘書と3人で休憩の場所に行った後に会場に戻ったところ、そこに実行委員会のメンバーの1人の大使の方が招待された横山元議長がいた。市長が

「なんで来てんだ。あのデブ、二頭身か、気持ち悪い、死ねよ。あ、言っちゃった。あ、心の声」

と言った 。

あまりにも衝撃だったんで、私と随行で来ていた秘書は「さすがにないよね」という感じで目を見合わせた。私たちに言ったというより元議長の方を見て睨むような感じで言った。すぐ近くに妃殿下も、横山元議長もいる。周りは大使の皆様、公使、参事官、書記官など外交官ばかりで、英語で喋っていても日本語ができる方もたくさんいる。そういう中で、小学生みたいな発言をされて、聞かれるんじゃないかとドキドキした。もしかしたら聞こえていたかもしれ ない。今でも恐ろしくて手が震える。

(8) (委員、前副市長、現副市長らについての暴言)

市長が議会での同意を得た上で任命をする行政委員会の委員、つまり自分が議会に同意を諮って、この人を任命したいということで任命をした方に対して、

「なんでそんなにこいつにアルバイト代を与えてんの」

というSMSメールが金曜日の夜9時前に入った。

前副市長について、「ポンコツ」「ダチョウ」を代名詞にして

「あのダチョウのマネジメントが悪いんだよ」

とか

「あいつポンコツだから」

「●●はバカだからこんなことしてんだよ」

と発言。現職の副市長とA局長 について「人間のクズ」と発言。

(9)(2024年途中からの変化と「人事部からのジャブ」)

噂としては 兵庫県庁でのパワハラに関する報道以降という風に言われているが、怒鳴ったりとか書類を投げたりは表立って見られなくなり、表面的には「有難う」ということも増えた。その裏では、(音源を出して再生)

「今までだったら俺が電話してふざけんなと言えたんだけど、今言えないじゃない。どうすればいいって、市長怒ってますよっていうことを、オレ飛ばされるかもしれないっていう恐怖を与える人事部からのジャブが与えられないか」

と言われた。その後は粛清という言葉も使われている。

久保田氏の会見発言についての評価

久保田氏は、現職人事部長として山中市長の言動に対して行動を起こした理由、決意した経緯、山中市長の問題の内容、週刊文春の報道後、山中氏が出したコメントについての反論などを詳細に述べている。

特に、現職人事部長としての今回の行動に至った経緯について、受験を控える子供もいるなど家族への影響も生じ得るのに、人事部長としての職責を果たすために今回の行動を決意した理由が、具体的なエピソードも含めてリアルに表現されている(上記(5))。

「いじめ」について、

「私は人事部長なのでそれを止める立場、助ける立場だということで、ここは逃げてはいけないのではないかと思った。」

と述べていることからしても、久保田氏は、「自分自身を被害者とするパワハラ」より、横浜市役所職員全体に対する「山中氏の人権軽視の姿勢」によって市職員全体が「いじめ、パワハラ被害」に遭っていることを問題にしていると考えられる。

絶対的権力を持つ市長との関係からすれば、市職員が個別に被害申告することなど到底できない。その被害申告を人事部長が直接行うことはできないが、人事部長としての告発を、第三者調査に結び付けることができれば、その調査に対して市職員が山中市長からのパワハラ被害の実態をありのままに述べることを期待して、今回の行動に至ったと考えられる。

会見で、久保田氏が山中市長の発言を録音した音源を公開して、新たに明らかにしたのが、「人事部からのジャブ」の要請である(上記(9))。

2024年に兵庫県知事のパワハラが問題にされるようになってから、それまで、電話して「ふざけんな」と恫喝していたことに代わる手段として「人事部から間接的に人事上の冷遇をちらつかせることによる脅し」を使って山中市長の意向に従わせることを求めたというのである。これは、久保田氏が言うところの「市職員全体のパワハラ被害」の一つであり、まさに「市長の権限を用いた恐怖による支配」そのものである。

この点を、久保田氏が、週刊文春の記事には出さず、会見で音源まで示して強調したのは、「市職員が受けているパワハラ被害」に関する事実として特に重要ととらえているからであろう。

後述するように、山中氏は、この久保田氏の指摘に対して、「市民目線の政策を進められていない職員にきちんと動いてもらうための 適材適所の人事配置を行うようにするため」などと弁解しているが、ここで、このような指示以前に、市職員に直接電話をかけて「ふざけんな」と恫喝していたことは認めているのであり、音源を公開して行った「人事部へのジャブの指示」は極めて大きな意味を持つものである。

山中氏の非公式会見での発言内容

久保田氏の会見の翌日の16日、山中市長は、前日の久保田氏の会見の内容を踏まえて、市政記者クラブの記者に対する非公式会見を開いた。

発言の要点は以下のとおりであるが、その中で、「1対1の限定された空間での人事評価におけるやり取りについては、個別にどなたに対しての発言かを特定できる形での回答はできない性質のものであることをご理解いただきたい。」との発言を繰り返した。

(a)事実関係として、私が承知してない、または、認識してない発言が一方的に公表されたことは、大変残念だし、すでに日曜のコメントで発出している通り。

(b)市役所は市民のためにある。活動の原資もそして人件費も全て税金で賄われている。市民目線の徹底は不可欠なので、その視点を欠いた職員に関する批判を行うことはある。 市の幹部が政策を立案するにあたってこれまで通りの内容を、環境が変化しているにも関わらず前例踏襲しようとする、あるいは市民の税金で事業が成り立っているとの認識が欠けているのではないか、事業の費用対効果が十分に検証されていない場合には、市民から負託を受けた市長の立場として指摘を行わざるを得ない。

私は21年に初当選し、就任後すぐにカジノを含むIR誘致の撤回を行った。当時 IRの推進をするためにずっと働いてきた職員たちは、私が当選したことによって市の方向性が変わり、戸惑いを覚えたろうと思う。

私が子育てしたい町を市の方針として打ち出したことでその掲げる方向に一生懸命になって働き、変化へ対応してくれた職員がいる一方で、こうした変化に十分に向き合えない職員がいる。そこで私は、そういった市民目線という点で指摘をしなければならない職員について人事部に考えて欲しいと思って、信頼を置いた人事幹部職員に対して発言した。そのことで私の思いが出すぎてしまった表現があると思う。当該幹部職員に心理的な負担をかけてしまったことについては、当該幹部職員に対して率直にお詫びしたいと思う。発言が強い点について見直すべき点があるので、専門家による私の言動にかかる見直しの指摘を受ける機会など設けてまいりたいと思う。

(c)私自身に関する話なので、私自身が自分の調査をする、しないの判断を行うと恣意的な判断になる懸念があるので慎重であるべきと考える。また一方でこれだけ社会的に関心があることになっているので、調査をやらないという判断をすることの適切性についても慎重に考えなければいけないと思う。そうであるからこそ、今回報道機関の皆様のご質問に対して真摯に対応をすることで理解を得たいと考えている。

今後市において、本件の調査を行うかどうかや枠組みなどについては検討していくと思うが、仮に調査を行うことになった場合は、私としても誠実に対応しなければならない。

(d)昨日の会見でも出されていた音声の件について、市民目線の政策を進められていない職員にきちんと動いてもらうための 適材適所の人事配置をすることは人事部の仕事そのものなので、時代に即したやり方で考えて欲しいと思っていた。そういったことを私が思っても、今のご時世、私が言うべきでもなく、直接言うと意識させてしまうので、私が前に出る形での発言を避けたいという意図で発言した。当該幹部職員との信頼関係の中で1対1の限定された場なので、第三者の人事評価に関してその趣旨の発言をした。直接評価対象者に対して言ったものではないが、その発言を聞いた人事部幹部にとって辛いものであったことに対し指摘を真摯に受け止めなければならないと思う。

(e)「バカ、ポンコツ」などを発言したという点について、一般に市民目線でおかしいと思ったことがあれば指摘する。例えば緊急対応の責任者になっているのに電話に何時間も出ない、しかも1回だけではなくそういったことが繰り返されることには指摘を行う。また前例踏襲で判断をして政策の立案遂行にあたって市民の税金で事業が賄われているという感覚に乏しいなど、職位に応じた能力が発揮されてない場合に人事評価の中で指摘することはある。

ただ当該幹部職員との信頼関係の中で1 対1のクローズドな場で人事評価としてのもので、その中でのマイナス面 のコメントとして、率直に言ってそのような発言はあった。自分が至らない部分があったと思う。当該言動については評価対象者に直接伝えたものではないが、その発言を聞いた 幹部職員にとって辛いものであったことは真摯に受け止め、今後言動に 注意する。

「クズ」「おばさん」「なんで市長がそこまで教えなきゃいけないんだよ」「スペックが低い、頭が悪い」などの発言も、1対1の人事評価に関するやり取りの中で発したものである。

(f)「TICADを誘致できなければ切腹だぞ」と発言した点について、もし誘致をできなければ私自身が責任を取らなければならない。その覚悟を表現したものであり、他者に向けて反発した言葉ではない。ただ誤解を招く表現を使ったことについては今後注意する。職員を銃で撃つ仕草は他人に対しては行わない。

(g)容姿や外見に関する誹謗中傷は行っていない(幹事社の質問に答えて、横山元議長に関する「デブ」「二頭身」発言も否定)。また、机を叩いたり書類を投げつけたりしたとの指摘については、投げつけるというと相手の方にバンって投げたっていうような風にも受け取られかねないが、そのようなことはない。ただ、書類を見て机の上にポンと置くようなことは ある。

(h)当該幹部職員を出禁にしたのかという点については、これは属人的に誰かと会わないということはない。当初の報道では、当該幹部職員が現在も出入りできないような表現になっていたが、昨日ご本人が会見で話されていた通り、出入りできなかったとされる期間は営業日で3日、人事以外の公務も市役所内外で多数あるので、その3日間会う機会が取れなかったのみで出入りができなかったという事実は ない。

市長室における政策論議にあたっては、職員の時間的拘束を伴うものなので、職員の人件費、そして職員の時間も使うので、そういったコストを踏まえてスピード感を持って対応する必要がある。1つの会議に20人ぐらいいることが常態化していた。話すのは1名、2名。その他の人たちは万が一に備えてということで会議に参加をしていた。税金で成り立っている人件費なので、人事部長と共に、あるいは副市長と共に色々改善を進めてきている。

山中氏の発言全体の趣旨

山中氏は、(a)で、久保田氏が自分の言動について認識の確認なく一方的に流布していることへの不快感を表明し、(b)では、日頃から市職員に対して「市民目線という点での指摘」を行っていること、その観点から人事評価について発言したものであると述べて自らの姿勢を正当化し、(d)では、久保田氏が音源を公開して指摘した「人事部からのジャブ」について同様の理由で正当化し、(e)で「バカ、ポンコツ」「クズ」「おばさん」「スペックが低い、頭が悪い」などの発言を久保田氏に対して行ったことは認めた上、これらについて「その発言を聞いた人事部幹部にとって辛いものであったこと」については謝罪している。

山中氏は、久保田氏が指摘した自分の発言のうち、「市民目線という点での指摘」の観点から人事部長に、対象職員の評価に関する発言として正当化できる範囲では認めた上で、その発言を聞いた人事部長が辛い思いをしたのであれば、その点のみ謝罪する一方、そのような理由で正当化できない容姿についての誹謗中傷は否定している。

要するに、市民目線の市政実現のための人事評価をするために、人事部長との1対1の会話の中で厳しい言い方をしたということで自己の言動をすべて正当化するものであり、「謝罪」というのも、人事部長に対してのみ謝罪する、ということのようである。

重要なのは、第三者調査についての(c)である。「自分の調査をする、しないの判断を行いますと恣意的な判断になる懸念がある」と言った上で、「報道機関の質問に対する真摯な対応」をすることで、「調査をやらないという判断をすることの適切性」について「理解」を求めたいと言っている。

この非公式会見で、冒頭30分の説明の後、1時間にわたって記者の質問に答えている。自分では調査の実施不実施に直接口は出さないが、報道機関の理解によって調査をやらない判断になるようにしたいという思いを述べているのである。

山中氏の主張の不合理性

山中氏は、(b)で「市民目線の視点を欠いた職員」「環境が変化しているにも関わらず前例踏襲しようとする職員」「市民の税金で事業が成り立っているとの認識が欠けている職員」「事業の費用対効果が十分に検証されていない場合」などについて、市長として批判、指摘をしたということで人事部長に対する言動を正当化しようとしている。山中氏の主張のとおりであれば、市長としての方針に基づく正当な人事評価を指示する上で、その言い方に問題があっただけということになる。

要するに、山中氏が言っているのは、「言い方」の問題以外全く非がないということだ。「容姿に関する誹謗中傷」「相手に向けての銃撃のポーズ」「横山元議長への暴言」など正当化する余地のない行為は、久保田氏の証言を完全に否定し、認めている発言についても、目的や趣旨が久保田氏が会見で主張したこととは全く異なるというのである。

どちらが言っていることが正しいのか。

久保田氏、山中氏の発言の信用性

以下の3点から、久保田氏の発言内容及び主張は信用性が高く、山中氏の主張には合理性、信用性が全くないことは明らかだ。

第一に、仮に、山中氏が言うとおりだとすれば、「市民目線の市政」など市長が実現しようとしている政策を理解しない「不良職員」「不良幹部」についてマイナス評価をする際の言葉使いの問題に過ぎなかったのに、久保田氏は、現職人事部長でありながら、それを週刊文春への告発という手段に訴えて外部に明らかにしようとしたことになる。

しかし、久保田氏が会見で述べていること、特に、(5)で述べているように、自分や家族への不利益が生じても、「いじめ」のような市長の行為から市職員を守るべき職責を果たすべきと思ったことを具体的なエピソードも交えて語っていることに照らせば、そのようなことは凡そあり得ないことは明らかであろう。

第二に、山中氏は、人事部長との「人事評価」に関する会話の中で、マイナス評価に関して発言したと主張するが、久保田氏の説明によれば、「人間のクズ」「ポンコツ」「デブ」「気持ち悪い」などと言われた対象人物は、副市長、局長などである。特に「ダチョウ」「ポンコツ」と言われたのは、市長に次ぐ地位の特別職である副市長であり、市長と人事部長との間で人事評価する対象ではない。そのような市の幹部職員についての侮蔑的発言は、単なる好き嫌いの問題としか考えられない。自らの「暴言」を、対象者側の姿勢や仕事ぶりの問題であるかのように説明すること自体が、山中氏の発言の信用性を否定するものである。

第三に、山中氏が週刊文春報道の直後のコメントで久保田氏の主張に反論している点について、会見で久保田氏は合理的な反論をしており(「出入り禁止」については(3)、私用メールアドレスでの連絡の経緯については(6))、これらについて、山中氏は非公式会見で何ら反論できていない。

現時点で両者の主張が1対1で対立しているのが、「銃撃ポーズ」「書類を投げつけるような仕草」「横山元議長に関する発言」だが、このうち、久保田氏が鮮明に記憶している

「なんで来てんだ。あのデブ、二頭身か、気持ち悪い、死ねよ。あ、言っちゃった。あ、心の声」

の中には、過去に山中氏のパワハラが問題になった際の発言と同様の特徴がある。

久保田氏によると、山中氏は「死ねよ」などと「明らかな暴言」を口にした後に、「心の声」などと取り繕う言い方をしたことになるが、2021年市長選の際に横浜市大時代の山中氏のパワハラが問題となった際にもこれと同様の言い方があった。

ブログ等で引用しているパワハラ音声の提供者は、市大の取引先の企業の役員だった。この役員は、業務に関係のない不当な要求を繰り返していた山中氏の電話に出ないようにしていたが、あまりにしつこく電話がかかってくるので、仕方なく電話に出たところ、山中氏は、

「電話に出ろ!殺すぞ!」

と言った後、

「殺すって言っても、社会的にな!」

などと付け加えたのである(【立憲民主党は、「パワハラ音声」を聞いても、山中氏推薦を維持するのか ~問われる候補者「品質保証責任」】)。

「死ね」「殺す」などと、それ自体「一発アウト」となるような言葉を発した後に、それを薄めるような言い方をするのが、山中氏のパワハラ的発言の特徴である。久保田氏が記憶している元議長に関する暴言は、その特徴と見事に一致しているのである。

この横山元議長への発言は、もう一人、山中氏の秘書も聞いていて、久保田氏と「目を見合わせた」というのであるから、第三者調査が行われ、秘書にヒアリングすれば、発言の事実が確認できるはずである。

今後横浜市がとるべき対応

 久保田氏は、山中氏の非公式会見での発言を受けて、以下のようにコメントしている。

「言葉の問題じゃない。人を大切にすることだよということが分かっていない。」

「明確な証拠がなさそうものについては認めない方向というのが少し感じられる」

(【横浜“パワハラ”告発の人事部長 市長反論受け「本質分かっていない」】ANNnewsCH)

久保田氏は、上記発言(1)で、「横浜市長としてふさわしい人権感覚を持って、法令を遵守した、そして横浜市民や市会議員、我々市職員から尊敬されるような言動に改めていただくこと」を求めているが、山中氏の非公式会見でのコメントの内容は、それとは全く真逆のものである。

久保田氏が、(2)で述べているとおり、「横浜市として中立性や専門性がしっかり担保された形で調査が実施され、その結果に基づいて、市長の言動が適正化されるという必要な対応が進んでいくこと」をめざすしかないのではないか。

それに関して重要な論点になるのが、今回の山中氏のような「市長のパワハラ問題」の再発防止のための市長を含む「特別職のコンプライアンス問題」についての規範、ルールの制定である。

上記発言(4)で、久保田氏は、人事部長自らの公益通報を外部に対して行った理由について、「横浜市の不正防止内部通報制度は一般職である本市職員の法令遵守を目的としたもので、市長が関与した行為は対象にならないこと」を挙げている。

横浜市特別コンプライアンス条例の提案

上記の点について、私は、かねてから問題意識を持っており、昨年、市長選に向けて横浜市の問題を考えた際にも、市長によるパワハラが深刻化していると言われている中で、その効果的な対策として、特別職を対象とする通報、調査体制の構築のための条例の制定を検討していた。

昨年7月、悪性リンパ腫で緊急入院した直後、当事務所の佐藤督調査室長が、私の指示にしたがって急遽完成させてくれた「横浜市特別コンプライアンス条例案」を、設立したばかりだった「日本に法と正義を取り戻す会」のウェブサイトに掲載し、ニュースレター【「横浜市特別コンプライアンス条例案」の公表】で公表した。

同条例案は、強い権限を有する「コンプライアンス特別顧問」を選任し、そのもとに「特別コンプライアンス室」を配置し、市長や市議会議員を含む「特別職」によるパワハラ・セクハラ、市議会議員による不当要求などの「特定コンプライアンス事象」についての公益通報の処理に関し、法にのっとった万全の体制を構築することを内容とするものだ。

今回の久保田人事部長の公益通報も、上記の条例が制定されていれば、特別コンプライアンス顧問中心の調査体制によって適切に対応することができたはずだ。

この機会に、上記条例案を是非参考にしていただき、市議会において効果的な条例の制定が議論されることを期待したい。

山中氏パワハラ問題等のこれまでの経過

山中氏の非公式会見の翌日の17日、イギリスBBCが、【Japanese mayor apologises after calling staff ‘human scum’】(日本の市長が職員を「人間のクズ」と呼んだ後、謝罪)と題する記事で、横浜市の山中市長の問題を報じた。

この問題は、横浜市ローカルの問題から、全国レベルに、そして国際的にも注目されつつある。

世の中の多くの人には、1期目を無事に務め、2期目に入った現職市長を、人事部長が突然告発した「特異事象」のように見えているかもしれないが、山中氏をめぐっては、4年半前からさまざまな問題が指摘されてきた経緯がある。

2021年市長選の時点から、山中氏の「市長としての適格性」について、多くの問題が指摘されていた。2017年からコンプライアンス顧問として横浜市に関わってきた私の下に、山中氏の専門性、パワハラ体質、経歴詐称などの様々な問題についての情報提供があった。特に、山中氏周辺の横浜市大関係者からは

「絶対に横浜市長にしてはならない人物である」

との真剣な訴えがあった。

山中氏のパワハラ体質の問題については、

(1)横浜市大における部下の教職員に対するパワハラ問題

(2)副学長を務めていた横浜市大の取引先に対する「経営介入」の不当要求・脅迫問題

(3)山中氏の市長選出馬報道に際して発出された「山中教授とは連絡がとれない」「大学は市長選には関わらない」との学内文書について、同大学学長・理事長に訂正・謝罪を求め自己を称賛する新たな文書を発出するよう強要した問題

などがあった。

それ以外に、経歴詐称の問題もあった。多くの理学系研究者の学歴は、学部卒業後修士課程に2年、博士課程に3年在籍し、博士号を取得する。しかし、山中氏の学歴は、政治経済学部を(1年留年して)5年で卒業した後、学士入学で理工学部数学科に2年間在籍し、その後理工学大学院の修士課程を修了したというものだった。九州大学医学部の助手となった時点では博士号は取得しておらず、その後、米国NIH留学中の2003年10月に、早稲田大学で「博士論文」の認定を受け博士号を取得した。つまり、大学院博士課程で取得する「課程博士」ではなく、「論文博士」だ。

ところが、山中氏は、学部卒業年次を1年遡らせて「1995年早稲田政経学部卒」とし、「1998年数学科卒」を除外し、「2000年 大学院修了」と表示して「修士課程」を除外することで、「学部卒業後、大学院に5年在籍」という、一般的な理学系研究者と同じ外形としていた。

それに加え、博士号「取得後」に、実際には留学生扱いの研究員だったのに、正式な連邦職員として採用される「NIHリサーチフェロー」として勤務していたように詐称することで、「大学院博士課程を修了し、博士号を取得して、米国NIHに正式職員として採用された」という輝かしい経歴を装ってきた。

これらの問題の指摘を中心に、山中氏の落選運動に全力で取り組んだ。上記(1)の問題を週刊誌フラッシュが取り上げ、(2)については、前記のとおり、私がパワハラ音声を公開するなどしたが、それらの問題をことごとく無視してきたのが、横浜の一般メディアだった。

医師ではなく、臨床研究等の統計処理の専門家である。山中氏を擁立した江田憲司氏を中心とする立憲民主党が、コロナ医療あるいは感染症の専門家でもない山中氏を「コロナの専門家」とアピールする選挙戦略で臨み、新型コロナ感染急拡大による自民党・菅政権への「逆風」が、そのまま山中氏への「追い風」につながり、山中氏は圧勝した。

上記(3)の問題については、山中氏が市長に就任した後に、私が市議会に請願を行い、今回、山中氏の暴言の対象となった横山元議長等の自民党や国民民主党の市議などが、山中市長追及を行っていた。

しかし、2期目の市長選では、自民党横浜市連の佐藤茂市議が多くの自民党市議の反対を押し切って強引に山中氏を支持し、山中氏の問題はほとんど顕在化することなく、圧勝で再選を果たした。

2021年市長選の時点から指摘してきた山中氏の問題は、ウソ恫喝であった。人事部長としての職責を果たすべく、自らの利害を顧みることなく久保田氏が告発したのが様々な手段による山中氏の市職員に対する恫喝であり、その久保田氏の主張に対して、山中氏は、「謝罪」を口にしつつ、久保田氏の主張を正面から受け止めず、「市民目線を欠いた市職員への批判」などと自らの正当性を主張している。それは、過去にも繰り返してきた巧妙なウソそのものである。その非公式会見でのウソを、そのまま垂れ流しているのが横浜市政を担当するメディアである。

久保田氏の今回の真摯な訴えを受けて、早急に第三者委員会を設置し、上記のような過去の経過も踏まえ、「山中市長のパワハラ問題」について調査を行うことが必要である。

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人事部長が実名告発した「山中横浜市長パワハラ問題」、2021年市長選での「パワハラ音声」を再検証

横浜市の現役の人事部長の久保田淳氏が、山中竹春横浜市長の不適切な振る舞いや暴言の数々を実名・顔出しで告発する記事が、文春オンラインに掲載され、横浜市と横浜市民に衝撃を与えている(【【異例の実名顔出し告発】横浜市長・山中竹春氏の暴言&誹謗中傷を現職市役所幹部が明かした!《副市長を「ダチョウ」「人間のクズ」と…》】)。

兵庫県知事の斎藤元彦氏をめぐる問題は、西播磨県民局長の「匿名告発文書」に対して、斎藤知事が、犯人捜しをして告発者を突き止め、知事定例会見で「嘘八百」「公務員失格」などとこき下ろし懲戒処分まで行ったことに端を発し、斎藤知事のパワハラ、公益通報者保護法違反問題をめぐって、2年近く経った今も分断対立が深刻化している。

一方、日本最大の基礎自治体である横浜市をめぐる今回の問題は、現職の人事部長による「覚悟の実名顔出し告発」が週刊文春に対して行われ、今週、告発者の記者会見も予定されているということであり、山中市長側の今後の対応如何では、兵庫県の問題以上の「地方自治体をめぐる混乱」が深刻化する可能性がある。

2021年市長選でも指摘されていた「山中パワハラ問題」

この山中市長のパワハラ問題は、今回初めて出てきた話ではない。2021年8月に山中氏が初当選した市長選の際も、新型コロナ感染拡大の最中、「コロナの専門家」「横浜市大医学部教授」を最大限にアピールした山中竹春氏が、現職閣僚を辞任して出馬した自民党候補者等に圧勝して当選したが、選挙戦の最中から、山中氏が、「統計の専門家」であって「コロナの専門家」ではないこと、横浜市大でのパワハラ疑惑、市長選に絡む学長への強要疑惑、経歴詐称疑惑が指摘され、市長就任後も、市議会でも自民党公明党等による追及が行われた。

4年後の2025年の市長選では、再選をめざす山中氏について、就任当初から問題にされていたパワハラ疑惑が、その後市職員に対して恒常化しているとの話もあり、市長選で問題化することも考えられ、前回市長選後、山中氏を厳しく批判してきた自民党が、市長選に向けてどのような対応を行うかが注目された。

多くの自民党市議が山中市長再選に反対し、新たな候補者を模索したが、一方で、自民党横浜市連会長の佐藤茂市議が山中氏再選を強く支持し、新たな候補者擁立の動きをことごとく潰した。佐藤茂市議が、多くの横浜市議の強い反対を押し切り、結局、自民党横浜市連は山中氏を支援することとなった。

市長選では、公開討論会等での他候補との論戦をことごとく拒否して逃げ回った山中氏が圧勝し、再選を果たした。

横浜市役所を蝕んでいた「山中市長のパワハラ」

しかし、山中氏のパワハラ的言動は、市長就任以降も市職員に向けられ、2期目に入って、それは一層激しいものとなり、確実に横浜市役所を蝕んでいた。それが今回の人事部長による「覚悟の実名・顔出し告発」につながった、ということであろう。

私は、2021年横浜市長選の際、山中氏について、「コロナの専門家」であることの疑問に加え、パワハラ疑惑、経歴詐称疑惑などを、「夕刊紙風」落選運動チラシにまとめて公開したり、パワハラ音声を公開したりといった様々な方法で追及してきた。

2025年市長選の際も、6月14日に横浜市旭公会堂で、《横浜に法と正義を取り戻す会》と題して講演会を行い、山中氏のパワハラ音声も再生するなどして、2021年市長選の際に落選運動で指摘してきた山中氏のパワハラ体質が「人格の本質」であり、市長に再選された場合、二期目の横浜市役所は悲惨な事態になることを訴えた。

その後も、山中竹春氏の再選阻止を目指して全力を挙げるつもりだったが、その後、体調悪化し、悪性リンパ腫と診断され、7月中旬に緊急入院ということになったために、その後の活動はできなくなった。

現職人事部長による「実名・顔出し告発」の内容

  • 2023年4月、久保田氏が国際局部長に昇進した後、打ち解けると求められる水準がどんどん高くなり、その基準に達していないと判断されると、パワハラ的な言動が現れる
  • 翌週、外務省の職員が視察に訪れる予定があったことを、久保田氏は事前報告の必要がないと判断したが、市長室で視察を知らされるやいなや、「なんでそんな大事なことをもっと早く言わないんだ!」と机を叩きながら怒鳴り、持っていた紙を机に投げつけた
  • 山中氏は妻に久保田氏を紹介する会話の中で、「(次の)TICADを誘致できなかったら、切腹だからな。」と言った
  • 4月に久保田氏が人事部長に就任した後同年2025年10月のこと。山中氏は市長室で、久保田氏に対し、指で銃を撃つポーズを作ると、撃つような真似をしながら「お前、裏切ったらコレだからな」と言った
  • 深夜や早朝、休日に連絡してくるのは当たり前。時には、朝7時や深夜0時過ぎに連絡が来ることもあった。「内容を市役所職員に見られるかもしれないから」という理由で、やりとりは業務用の携帯ではなく、私用スマホを通じてだった。「返事が遅れると『なんで遅いんだ』と怒られるので、自宅のトイレでもお風呂の中でもスマホを持っていないと落ち着かなかった
  • 2025年2月5日に横浜の赤レンガ倉庫で開催された、「にっぽん―大使たちの視線2024」と題された写真展の、開会セレモニーで、山中氏と対立していた横山正人元市議会議長の顔を見るや、山中氏は不機嫌さをあらわに。「なんで来てんだよ? あのデブ。何等身だよ?二頭身か?気持ち悪い。死ねよ」と言った
  • 昨年退任した女性の副市長のことを、『バカ』、『ポンコツ』、『ダチョウ』と何度も言っていました。別の副市長については、ある重要案件について市長の意に沿う動きができなかったために『人間のクズ』と評していた
  • 「男性の部長や局長について『スペックが低い』、『頭が悪い』と文句を言ったり、女性の部長が意に沿わなかったために『なんで50過ぎたオバサンたちに、こんなことまで市長が教えなきゃいけないんだよ』と悪態をついていたこともあった

上記のような現役人事部長の久保田氏による山中氏のパワハラ的言動の告発を内容とする週刊文春の報道に対して、山中氏は、以下のような「2026.1.11報道に対するコメント」(以下、「山中コメント」)を公表している。

(1)事実関係として承知していない、認識のない発言を一方的に公表された

(2)外見や容姿について中傷するようなことはない

(3)市民目線の徹底の視点を欠いた市の幹部に対して批判を行うことはある

(4)安易に公共料金の値上げなどにより市民に負担を強いるのではなく、市の組織内で無駄を減らす努力を最大限行なったあと、やむをえない場合でない限り 軽々に市民負担を求めることはできない。市民の安全に懸念が生じる事態についても、情報の端緒を得ながら放置することは許されない

(5)人事評価においては、被評価者のプラス面もマイナス面も発言をすることはある。人事評価は双方率直に内部的なやり取りの中で行なっている

(6)報道にあるような私の言動があるとすれば、公然性の要件を充足すると名誉毀損や侮辱に該当しうる話であり、軽々に公表することはできない性質のもの

(7)市長室における政策議論にあたっては、職員人件費や時間的なコストも踏まえ、スピード感を持って対応するため、副市長・局長・部長という職員機構の指揮系統のもと、政策ごとに必要なチームを組んで対応している

(8)当該幹部職員は、現在も市長室での議論に参加しており、直近では2026年1月8日にも市長室で対応を受けているので、出入りができないことはない

(9)幹部職貝から市長宛に日中時間帯以外や休日に連絡が来てやりとりすることも多くある。2025年8月10日に当該幹部職員自身から、市のメールアドレスではなく、双方私用のメールアドレスを使ってPCメールでやり取りすることについて申し出があり私が応じた

久保田氏は、1月15日午後、神奈川県庁会見室で、嶋﨑量弁護士同席での記者会見の開催を予定している。

そこで、この問題の今後の展開に関して重要となるのが、以下の3点だ。

第1に、山中コメントが、久保田氏の告発に対する反論になり得るか、山中氏の市長としての言動が正当化されるか、というパワハラ発言の評価の問題である。

第2に、横浜市議会がこの問題に対してどのような対応をするのか、百条委員会の設置、市長の不信任決議というような事態に発展するか否かである。

第3に、今後、山中市長と久保田氏との法的争いについての見通しである。山中市長側は、山中コメントで述べているような主張を行い、久保田氏の告発に対抗していくことが考えられるが、一方で実名で告発した久保田氏は、横浜市の総務局人事部長の職にある。久保田氏の告発が公益通報者保護法による保護の対象になり得るとすると、今後、その職を解任する、他の部署に異動させる、というような措置と同法との関係が問題となる。

本稿では、まず、第1の点について、2021年市長選の際に指摘した横浜市大時代の山中氏のパワハラ問題と共通する「山中パワハラ問題の本質」について指摘することとしたい。第2、第3の問題については、別稿で述べることとしたい。

「山中パワハラ問題」の本質

今回の久保田人事部長の告発に対する山中コメントの(3)(4)には、相手方に非があり、「落ち度」「原因」があるのだから「叱責を受けるのも当然」という考え方が表れている。

それと共通するのが、2021年市長選の際に、個人ブログで山中氏の第一弾の「パワハラ音声」を公開したのに対して、その頃、山中氏側が発信手段として用いていた「しらべえ」というサイトに、山中陣営が山中氏から聞き取った内容をまとめた「山中氏の反論書」が出された、その反論だ。

今般、インターネットの動画投稿サイトにおいて、『山中竹春パワハラ音声』といった音声録音が字幕入りで流されていた。これは、約 2年前の会話が無断で録音されたものであり、この時期にインターネット上で流布されていることについて、大きな問題を感じる。

この会話は、切り取って掲載した人物の意図と全く違う状況でかわされたものである。2019年頃、外部団体から多額の研究費の拠出も受けた研究を横浜市立大学で行なっており、内外の研究機関10箇所程度と共同して行う医学研究の非常に重要なプロジェクトだった。

この音声は、当該研究の担当者が期日までに海外の研究機関等に必要な連絡や書面作成を行わなかったことが明らかになり、また、突如としてプロジェクトから離脱する意思を示したことから、プロジェクトの継続が危ぶまれることとなった状況下で当該人物と山中竹春とで行なった会話の一部である。

この人物による職務不履行はこれまでにもあり、納期のある研究等において支障をきたす状況が続いていた。

動画では、『ほんと、潰れるよ』と発言したことがクローズアップされているが、これは『このままでは非常に重要なプロジェクトが潰れる』という趣旨で発言をされたものである。

また、音声の最後において、『終わりだ』と繰り返し述べているのは、非常に重要なプロジェクトが頓挫し、違約金まで発生してしまうことへの焦燥感から出た発言である。

この前提で、音声データを聞いて頂ければ、相手に対してではなく、研究が潰れる、研究が終わりになるという趣旨で発言していることがわかっていただけると思う。

山中氏は、公開された音声が自分の声だと認めた上で、公開された音声は、2019年頃、外部団体から多額の研究費の拠出も受けた研究で、担当者の「職務不履行」があったために、プロジェクトの継続が危ぶまれることとなった状況下で「焦燥感から出た発言」だとして、パワハラ発言を正当化しようとした。

『ほんと、潰れるよ』と発言したのは、「このままでは非常に重要なプロジェクトが潰れる」という趣旨の発言であり、音声の最後で、『終わりだ』と繰り返し述べているのは、「非常に重要なプロジェクトが頓挫し、違約金まで発生してしまう」という趣旨だと述べていた。

山中氏の反論に出てくる「担当者」はフラッシュ記事の「Cさん」

大学関係者によれば、この山中氏の反論で出てくる「内外の研究機関10箇所程度と共同して行う医学研究の非常に重要なプロジェクト」というのは、「SUNRISE-DI試験」というプロジェクトだった。

反論書で出てくる同プロジェクトの「担当者」というのは、当時、山中氏のパワハラ問題を取り上げていた週刊誌フラッシュの記事で、山中氏のパワハラ被害者として出てくる「Cさん」に間違いないと考えられた。

Cさんは、山中氏のパワハラによって、精神的に追い詰められ、「適応障害」を発症したもので、横浜市大での山中氏のパワハラの中でも特に悪質な事例と認識されていた。

2018年、山中氏は、ある臨床研究の統計解析責任者としてCさんを指名していたが、2019年1月頃に、Cさんは山中氏から

「この件は私が引き取るのでCさんはやらなくてよい」

「君はもういい」

と言われ、Cさんは、同研究の統計解析の仕事から外れたと認識していた。

ところが、当該臨床研究の共同研究者が海外から2019年3月初旬に来日することとなり、2月下旬に、山中氏はC氏に、

「やはり私は多忙でできないので解析を行うように」

と指示した。統計解析は、急ぎの案件でも2週間程度は必要となるのを、およそ1週間で急遽まとめてほしいということだったが、作業の進め方に関する具体的な指示はなく、山中氏に確認してから中間結果を報告する日までは、3日間しかなかった。

中間結果報告では、図表などは後で作成することを前提に、結果の数字をまとめて報告したが、山中氏は、

「これでは全然ダメ」

と一蹴した。

その後、山中氏からほぼ毎日、電話などでの進捗確認があり、頻繁に叱責を受けるようになった。この頃から山中氏は、感情を荒だてることも多くなり、Cさんに、電話で

「いい加減にしろ」「さぼるな」

などと怒号したり、

「君のためにプロジェクトが潰れる」

「君がそんなようなら私にも考えがある」

などと叱責したりされたことなどから、Cさんは精神的に追い詰められ、2019年3月、心療内科で適応障害の診断を受け、2週間程度休暇をとったが、その後も、Cさんは統計解析を続け、論文投稿まで、統計解析責任者として関わっていた。しかし、連日必死に解析をおこなったCさんは、論文の共著者から外された。

学内関係者の間では、Cさんが適応障害になった直接の原因は、中間報告後の電話などでの頻回の進捗確認やその際の叱責・怒号であり、そのような山中氏の言動が、重大なパワハラ問題として認識されていた。

パワハラ音声の公開に対する「反論」として、山中氏は、音声が、自分自身のCさんに対する発言であることを認め、「このままでは非常に重要なプロジェクトが潰れる」という趣旨で「潰れるよ」と言ったと説明している。

実際の音声データの中では、

「僕は最後の行動に出るからね。君が、君がわからない知らないような。ほんとにそれでもいいんだったらー、ほんと潰れるよ」

というような恫喝的発言をしているが、そのような発言をした相手はCさんだったと述べていたのである。

公開したパワハラ音声での発言の相手は、「Cさん」ではなかった

山中氏は、公開されたパワハラ音声を聞き、発言の相手がCさんであるとした上、Cさんの側の「職務不履行」が原因だったとして、パワハラ的発言を正当化しようとした。

しかし、実は、公開したパワハラ音声を提供したA氏は、Cさんではなく、全然別の人物だった。第一弾の音声の公開の時点では、情報源が特定されないよう、事案の内容がわかる部分やA氏の声などは音声データから削除していた。つまり、山中氏は、A氏に対して行ったような発言を、実は、A氏だけでなく、他の人にも、日常的に行っていたことを自白したに等しいのである。

音声データの提供者であるA氏は、横浜市立大学と契約を締結しようとしていた比較的小規模の企業の役員だった。学長補佐・大学院研究科長として、横浜市立大学の契約締結に大きな影響力を有していた山中氏は、同企業は同大学との契約を失うと会社が存続できないとの認識の下に、優越的地位に基づいて、あろうことか、取引先であるA氏の「会社の役員を変更しろ」という不当な要求をしていたのである。

取引先の役員構成に口出しをするなどということは、民間企業同士の取引であっても認められるものではない。公立大学の学長補佐が、契約を締結しようとしている企業の役員選任に介入するなどということは、絶対にあり得ないことである。

山中氏の要求に対して、「そのような要求には応じられない」と拒絶し続けていたA氏は、公開した音声データに出てくる露骨な恫喝を受けることとなった。

A氏から提供を受けた山中氏の音声データには、最初のブログで公開した部分の前のやり取りがあった。そこで、以下のように、取引先業者であるA氏に対する露骨な「脅し」の発言をしている。

山中:だけどね僕らーと、僕とねー、こんなことになったらー、君、大学の日本の大学病院に多く入れられなくなるよ、色んな病院に。

(A:はい。)

山中:マジで商売できなくなるからね。

(A:はい。)

山中:本気だよ、俺。こんだけ俺に、ここまで恥かかせてといてー、俺もうこれで県庁のコネとかー、大学での信用とかパアだから。…

上記部分を含む音声をYouTubeで公開したのが【山中竹春氏パワハラ発言 音声&起こし(第2弾)】だった。

「ほんと潰れるよ」という言葉は、山中氏が反論書で言っているような「プロジェクトが潰れる」という意味ではなく、「会社が潰れる」という意味なのである。それは、「言うことを聞かなければ、最後の行動に出て、会社を潰してやる」という脅しだった。

大学の取引先の企業の経営者を「会社を潰す」と言って脅迫し、不当な要求をしているのであり、刑法上「強要未遂」(刑法223条3項)に該当する犯罪である。

優越的地位に基づくパワハラ言動の構図の共通性

山中氏のパワハラは、横浜市大にいたころ、その内部でも多数の被害者を生じていた。しかし、彼らは、学長補佐・研究科長として学内で絶大な権力を持っていた山中氏のパワハラを告発することなどできなかったし、市長選挙で当選し、横浜市長に就任する可能性が高まっている山中氏に対して、名前を明らかにしてパワハラ被害を公にすることもできなかった。

そのような学内のパワハラと形式は異なるが、実質的には同じ構図の事象が、A氏に対する不当要求と、それに際して発せられた山中氏の恫喝的発言だった。

山中氏は、その音声を聞いて、学内者である「Cさん」に対する発言だと思った。そして、そこで、パワハラの指摘に対する反論として出てきたのが「Cさんの側に非があり、叱責を受けて当然」という理屈だった。

それは、山中氏のパワハラ言動が、教職員・学生等の学内者に対しても、契約関係にある学外の業者に対しても、同じように行われていたことを示すものであり、それらは優越的地位に基づく恫喝的言動・強要という点で全く同じ構図だった。

そして、パワハラ批判に対して、「相手方に叱責されて当然の非がある」という理屈を持ち出し、一切自らの非を認めようとしない姿勢は、今回の久保田人事部長の実名告発に対する反論としての山中コメントでも全く同様なのである。

久保田氏は、文春記事の最後で、「今までの振る舞いを反省して、横浜市長に相応しい人権感覚をもった言動をしてほしい。」と述べている。しかし、山中氏のパワハラは、その人格の本質に根差すものであり、反省して改めることが期待できないのは、これまでの経過からも明らかなのである。

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Abalance「第三者委員会」検証委員会設置について

昨日、Abalance株式会社(東証スタンダード上場)が行った「検証委員会の委員の選任に関するお知らせ」において、第三者委員会の調査結果報告書に対する検証委員会の委員の構成と今後のスケジュールについて開示があり、私が同検証委員会の委員長に就任することが公表されました。

同社は、連結子会社と太陽光発電所の建設工事業者との間の一部の取引における有償支給取引が収益認識に関する会計基準の適用指針に照らし、売上及び売上原価が誤って計上されていることが判明したとして昨年3月に過年度決算を訂正、その後、9月2日に、第三者委員会を設置、12月17日には、調査報告書が公表されました。

しかし、その結論の前提とされた「財務報告における虚偽記載の不正が故意のみならず重過失をも含み得るという会計上の慣行」について、その根拠が十分に示されていないことから、当事者の納得が得られにくく、包括的なガバナンス・コンプライアンスの強化及び個別の事象に対する適切な再発防止策を講じるための環境が十分に整っているとは言い難い面があることから、同社は、新たに検証委員会を設置し、第三者委員会調査報告書における、同社の「会計不祥事」に関する事実認定及び評価等について客観的な視点から検証した上で、取締役等各人の責任調査と新経営陣の陣容や組織に対する在り方に対する提言を求めることとしたものです。

委員長に就任する私は、「第三者委員会」の草分け的なものと言える、消費期限切れ原料使用問題を受けての「不二家信頼回復対策会議」で議長を務めたのをはじめ、キリンHDのメルシャン問題第三者委員会、田辺三菱製薬メドウェイ問題第三者委員会等の多数の第三者委員会委員長を務めましたが、九州電力やらせメール問題第三者委員会については、原発立地地域の自治体首長等の有力者との不透明な関係が根本原因だとする委員会報告書の指摘の受け入れを拒否した会社側と対立した経験もあります(【第三者委員会は企業を変えられるか~九州電力「やらせメール」問題の深層】

最近では、第三者委員会を設置した会社側や調査対象者側が、調査及び報告書の内容に納得できないとして検討や対応を依頼され、報告書の問題を指摘し、対応を求める活動を行った事例も複数あります。

「第三者委員会」には法的根拠はないものの、不祥事の当事者組織が自ら設置した場合にはその報告書が極めて重いものとして扱われ、委員会の調査の結果示された認定・判断を受け入れてそれを前提に対応することが、関係当局も含めて、強く求められることになりますが、一方で、第三者委員会の判断が、あらゆる場合にすべてにおいて正しいとは限らず、設置した組織の側からの反発・反論に相応の合理性がある場合もあり得ます。このような場合、専門性を有する客観的・中立的な立場からの検証を行うことで、第三者委員会の認定・判断を「客観化」することは、問題の根本的な解決の有力な方法であると考えられます。

今回の第三者委員会調査報告書に対しても、会社側の納得が十分に得られていない状況において、客観的中立的な立場から検証を行って問題を整理することが、経営の正常化、信頼回復に向けての環境を整備することにつながるものと思います。

私の場合、これまで、上記のように第三者委員会の委員長として、問題の本質を指摘し不祥事組織の信頼回復に相応に貢献した多数の事例がある一方で、問題の本質の指摘を受け入れない経営者側と厳しく対立した経験もあり、また、第三者委員会調査によって不利益を受ける立場の調査対象者の立場に立って、報告書の問題点を指摘したこともあり、様々な立場で関わってきた経験から、「第三者委員会の在り方」についても分析検討を行ってきました(日経bizgate《郷原弁護士のコンプライアンス指南塾【企業の不祥事対応における第三者委員会の活用(1)第三者委設置の判断と人選】【(2)調査事項、調査手法、報告書確定のプロセス】【(3)費用・報酬額、全体総括】)。

今回の検証委員会は、そのような私と、大手監査法人での勤務経験も有する公認会計士でもある藤井寿弁護士、第三者委員会での調査の経験も豊富な元裁判官の大下良仁弁護士という2人の実務家で構成しています。

2月10日の報告書公表という極めてタイトなスケジュールですが、与えられたミッションを果たすべく全力を尽くしたいと思います。

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長崎県大石知事宛て公開質問状

                               2025年12月22日

長崎県知事 大石 賢吾 殿

                     郷原総合コンプライアンス法律事務所

                            代表弁護士 郷原 信郎

                  公 開 質 問 状    

(1)選挙コンサルタントO氏の会社J社に支払われた約402万円の使途の詳細を明らかにすること。そのうち約100万円をJ社が収入として得ている事実の有無を明らかにすること

(2)前回知事選挙における「選挙に関する収入」の詳細を、後援会の政治資金収支報告書に記載されたものも含めて明らかにすること

(3)「2000万円貸付金」問題について、選挙コンサルタントO氏及び後援会の担当税理士M氏に対する責任追及について方針を明らかにすること

(4)後援会元職員に対する名誉毀損等の人権侵害について謝罪・名誉回復の措置等について方針を明らかにすること。「山口知宏」なる人物がインターネット上等で行っている不当・違法行為に対する対処方針を明らかにすること

1週間後の12月29日までに、当職宛に回答を送付して頂くようお願いします(公開質問状ですので、回答は、そのまま公開します)。

《公開質問の理由》

長崎県知事の大石賢吾氏に関する前回2022年2月の長崎県知事選挙における選挙運動費用収支報告書及び関連する政治資金収支報告書に関連する公職選挙法、政治資金規正法違反の各事件については、12月17日の長崎検察審査会の「2000万円政治資金規正法違反事件」の不起訴相当議決をもって、刑事手続がすべて終了しました(「402万円問題」「286万円問題」の公選法違反については既に公訴時効完成)。

これにより、一連の問題は、新たなステージに入ったと言えます。

一連の問題は、大石知事が当選して現職に就くに至った前回選挙での選挙資金収支をめぐる疑惑であり、その大石知事は、来年2月投開票の知事選挙に再選をめざして立候補することを表明しているのですから、前回選挙をめぐる政治資金収支等について疑念が生じ、法律違反の指摘を受けたことについて信頼再選をめざす候補者たる現職知事として、改めて十分な説明責任を果たすことが求められるのは当然だと言えます。

もとより、政治家、公職の候補者にとって、政治資金等の問題についての政治的な説明責任は固有のものであり、刑事手続が起訴に至らない形で決着したとしても、それによって説明責任を免れるものでは決してありません。

刑事手続においては、被疑者に黙秘権があり、関係者の捜査への協力も任意であり、刑事訴追に至るか否かは被疑者側の対応によるところが大きく、とりわけ、政治資金収支報告書、選挙運動費用収支報告書等の虚偽記入の事案については、客観的な違法事実があっても、意図的な虚偽記入の犯意に関する証拠上の問題で起訴には至らない結果に終わることが多いのが実情です。後述するとおり、一連の事案については、それぞれ、不起訴処分に至った理由として、主として被疑者側の対応によると思える事情が想定されます。刑事手続が起訴に至らない形で決着したことは、むしろ、刑事事件に関連する制約がなくなることで、説明責任が改めて問われる局面になったものと言えます。

そこで、【402万円問題】【286万円問題】【2000万円問題】について、事案の内容とこれまでの経過から想定される不起訴処分の理由について述べた上、それらに関連して現在発生している問題も含め、現時点において果たすべき説明責任に関し、大石知事に対し、標記事項について公開質問を行うものです。

1.【402万円問題】について

  この問題は、前回2022年知事選において大石陣営のインターネットによる選挙活動の企画、SNS選挙の専任者手配など、選挙期間中も選挙運動に「選挙参謀」的に関わり大石陣営の選挙運動全般を統括していたことをネット番組等で認めていた選挙コンサルタントO氏の会社J社に対する「電話代約402万円」が、選挙運動費用収支報告書の支出欄に記載されており、添付された領収書の記載により、O氏側への報酬が含まれている疑いが生じたことから、O氏の選挙運動に対する報酬支払の買収罪の疑いで長崎地検に告発を行ったものです。

この件については、長崎県警にも別途告発が行われており、公訴時効完成前の2024年10月に不起訴処分(嫌疑不十分)となりましたが、捜査担当者側からの説明や取材した記者の情報を総合すると、O氏など関係者が捜査に対して極めて非協力的で、家宅捜索まで行った結果、「約100万円が使途不明でO氏の会社の収入になっていた」との事実が明らかになったものの、O氏などの黙秘のために、O氏側への支払の趣旨についての証拠が得られず、起訴には至らなかったということであったと考えられます。そういう意味では、捜査により明らかになった客観的な事実関係は告発人の見立てどおりだったとことになります。

この約402万円のO氏側への支出について、大石知事は、県議会での質問に対して、「知事選挙における選挙運動費用収支報告書の記載等に関する告発状が関係当局に受理されているので、今後の捜査に影響を与える可能性があるため差し控える」と述べて答弁を拒否していました。既に、刑事事件の手続が決着している以上、答弁を拒否する理由はなくなっており、しかも、【2000万円問題】について、後述するとおり、O氏は、同選挙後も、大石氏の事務所や、県の知事部局と深い関係を持ち、選挙資金収支の事後処理や政治資金の処理に関わり、2000万円の貸付金の架空性と大石知事の認識に関して重要人物です。大石知事は、O氏の会社に「電話代」の名目で支払われた約402万円の使途について説明を受け、それを明らかにすることが不可欠と考えられます。

2.【286万円問題】

県内の医療法人が知事選挙での大石候補の支援のために行った寄附286万円が、大石陣営の選対本部長を務めた自民党県議の政党支部を迂回して後援会の口座に入金され、選挙資金に充てられていたことについて、選挙運動費用収支報告書に記載すべき収入であるのに、それが記載されていないことについて、公選法違反(選挙運動費用収支報告書虚偽記入)で長崎地検に告発したものです。

 この件については、医療法人側の寄附の目的が、大石氏の選挙資金の提供であったことを、県議会総務委員会等で長崎県医師会会長も認めており、虚偽記入罪の成立は明らかであるように思えますが、それが起訴に至らなかったのは、選挙費用と後援会との収支の混同が原因だと考えられます。

大石知事は、【2000万円問題】についての2025年10月24日の説明会見の際に、この点について、《本来個人の口座で管理をすべき選挙費用ですね、それと政治団体である後援会、そして確認団体、この3つの資金管理を同一の1つの口座で行っておりました。このため、煩雑となってしまって、結果として県民の皆様に疑念を抱かせてしまう不正確な資金管理の状況となってしまいました。》と述べています。

 つまり、候補者個人としての選挙費用の収支と後援会等の政治団体の収支が同一の口座で混然一体となって管理されていた、つまり、選挙資金の収支の管理があまりに杜撰だったことを認めており、そのために、同口座への入金のうち、どれを「選挙運動費用収支報告書の収入」として記載すべきなのか出納責任者の認識の立証が困難だったことが不起訴になった理由だと考えられます。

 一方、実際の大石陣営の選挙運動費用収支報告書の収入欄には、「大石賢吾 自己資金2000万円」だけしか記載されておらず、しかも、大石知事は、【2000万円問題】に関して、その「自己資金2000万円」の収入欄への計上すら知らなかったと弁解しています。医療法人からの286万円も含め、実際には、選挙資金の寄附をトータルで3000万円以上受けており、知事からの2000万円を合わせると5000万円を超えます。大石知事の選挙のために行われた多くの寄附が、収支報告書の収入欄に全く記載されていません(同年の後援会収支報告書に「一般的な政治活動の寄附」として記載)。

大石知事が述べている「選挙収支と後援会収支が同一口座で混然一体となって管理されていた」という杜撰な処理によって、【286万円問題】について選挙運動費用収支報告書虚偽記入の刑事責任は免れたものの、一方で、選挙に関して医療関係者など多くの個人、団体から受けた寄附が、同報告書で明らかにされていないという「極めて不透明な選挙収支報告」になっています。

次回県知事選に立候補を表明している大石知事にとって、前回知事選挙において、後援会の政治資金収支報告書に記載したものも含め、「どのような団体、個人から選挙資金の寄附を受けたのか」を、県民に対して改めて明確に説明することが不可欠です。

3.【2000万円問題】

  大石賢吾後援会の令和5年分政治資金収支報告書に記載された「大石賢吾 借入金2000万円」の削除訂正が行われ、それについて、大石知事は、《選挙コンサルタントのO氏から「(a)医師会信用組合から選挙資金として借り入れて入金した2000万円を後援会に貸付けたことにすれば適法に返済を受けることができる」と助言され、遡って金銭消費貸借契約書を作成し、約650万円の返済を受けた。その後、「(b)選挙運動費用収支報告書の収入欄に大石氏からの2000万円の自己資金が計上され、ほぼ全額が選挙運動費用に支出されていること」がわかり、2000万円の貸付金を削除訂正した。2000万円の金の流れが一本しかないのに二重に計上されていたことに気付かなかった》と説明しました。

候補者が、選挙の全体的な収支も残高も全く確認することなく、誰からどれだけの支援・寄附を受けたのかも認識しないまま、選挙運動を行っていたというのは常識的にも考難いものです。(b)の事実を知らなかったとする大石知事の説明はあまりに不合理であり、(a)の助言だけで2000万円の貸付金を計上することはあり得ず、架空計上の虚偽記入の認識があった疑いが濃厚と判断されたことが刑事告発を行った理由です。

 しかし、不合理極まりない説明であっても、大石知事が(a)(b)の弁解を言いとおし、O氏もそれに沿う供述をすれば、2000万円の貸付金が架空であることの認識、虚偽記入の犯意を立証するに足る証拠がない、ということで、刑事処分としては「嫌疑不十分」という結論にならざるを得ないということになります。

 しかし、そのような形で、刑事責任を免れたとしても、それによって、O氏の対応には重大な疑問が生じることになり、大石知事には、その対応に関して極めて重大な説明責任を負うことになります。

選挙の専門家である選挙コンサルタントは、選挙運動費用収支報告書の収入欄に自己資金2000万円が記載され、ほとんど選挙費用で使い切った記載になっていることを認識していたことは大石知事も説明会見等で認めています。上記(a)(b)の大石知事の弁解のとおりだとすると、後援会に対して2000万円を貸し付けたことにして後援会の収支報告書に借入金を計上することが虚偽記入に当たることは十分に認識していたO氏が選挙コンサルタントとして誤った助言をしたために、大石知事は、実際には実体のない架空の2000万円の貸付金を、違法と知らずに計上し、それによって刑事告発を受け、県議会、マスコミからも追及されるなど甚大な損害を被ったことになります。そうであれば、O氏の対応を問題視し法的責任を追及するのが当然です。ところが、大石知事は、O氏を全く批判しておらず、責任を追及する姿勢も示していません。

 それがなぜなのか。その理由は、これまでの刑事事件の手続で、O氏が大石知事の不合理極まりない①②の弁解に合わせてくれており、それをO氏が覆すと大石知事にとって致命的なことになるからとしか考えられません。

 しかし、今回の不起訴処分と検察審査会の議決で、刑事事件は最終的に決着し、O氏がどのようなことを言おうと刑事責任を問われる可能性はなくなりました。大石知事は、今こそ、「2000万円架空貸付金問題」によって重大な不利益を被ったことについて、O氏の誤った助言に対する法的責任を追及するか否か方針を明確にすべきです。

 さらに、最終的に、後援会の令和4年分の政治資金収支報告書に借入金2000万円を計上したことについて、当時、同後援会から報酬を得て会計処理を行っていた税理士のM氏に重大な責任があることは明らかです。M氏は、選挙運動費用収支報告書の収入欄に被疑者の自己資金2000万円が記載され、ほとんど選挙費用で支出していることを認識した上で、2000万円の借入金を計上したのであり、もし、大石知事がその違法性を認識していなかったとすれば、それを実行したM氏に、上記のO氏と同様に、政治資金収支報告書虚偽記入について重大な責任があります。

ところが、大石知事は、その点についても責任を追及する姿勢を全く見せず、「政治や会計処理に詳しくない職員に後援会の会計処理を任せてしまっていたということでございます。この任命責任につきましては、代表者を務めていた私にあるものと自覚をし、反省をする次第でございます。」などと、あたかも元職員個人の問題のように述べています。

 大石知事の弁解のとおりなのであれば、O氏と同様にM氏に対しても、責任を追及するのが当然であり、その方針について明確に説明すべきです。

4 「大石賢吾後援会元職員」に対する人権侵害と「山口知宏」問題

 大石知事は、元監査人からの業務終了通知の直後に、後援会元職員に、何の根拠もなく、元監査人と結託して後援会の資金を不正に出金したかのように疑って元職員を事務所から排除し自宅待機させた上、不当解雇したことに加え、【2000万円問題】の説明に関して、再三にわたって、元職員と元監査人が「親密な関係」にあるかのような発言を行い、今年10月24日の説明会見の場では、「後援会の元職員の方に事実確認の申し入れをしているが対応して頂けていない」などと事実に反する発言を行うなど(これに対して、当職から、「元職員に事実確認を求めるのであれば、代理人同席の上で応じる」旨の連絡を後援会事務局長に行ったのに対して非常識な対応が行われたことについて、添付資料「令和7年11月11日付け「ご連絡」参照)、元職員に対する重大な人権侵害を繰り返しています。

後援会において大石知事のために誠実に職務を行っていた元職員も、当然のことながら長崎県民の一人です。自らの後援会で雇用していた長崎県民に対して非道な人権侵害を繰り返している大石知事の対応は、県知事として到底許容できないものであり、刑事手続が決着した現時点において、人権侵害解消のために速やかに適切な対応を行うことを強く求めます。

 さらに、最近になって、大石知事に知事選への出馬要請を行ったと称する「山口知宏」なる人物が、「大石知事の政治とカネ疑惑は、すべて元監査人という「詐欺師」に陥れられたことによるものであり、大石知事は何ら悪くない」などという誤った言説をYouTube動画等で拡散するなどしており、一連の問題についての刑事事件の決着を受けて、そのような動きを一層活発化させてています。大石知事をめぐる前回知事選挙に関する公選法、政治資金規正法違反の問題については、既に述べたとおり、当職らが相応の嫌疑を持って告発を行うなどしたものであり、一時期大石知事が、政治資金問題について相談する立場にあった「元監査人」の行為や、どのような人物であるかとは全く無関係です。「山口」なる人物がネット上で引き起こしている「騒ぎ」は知事選に向けて長崎県民に誤解を与えかねないもので、それ自体看過できない事態です。

しかも、「山口」なる人物は、上記YouTubeチャンネルの動画中で、詐欺師の元監査人と元職員とが結託して、大石知事の後援会から資金を不正に出金したかのように述べて元職員の名誉を毀損する発言を繰り返していましたことに加え、前記の選挙コンサルタントO氏の令和7年2月8日付け「長崎県議会全員協議会質問書への回答について」と題する長崎県議会議長及び全議員宛ての書面をYouTube動画で公開しました。その中で、O氏は「一連の事案は、元監査人と元後援会事務局職員と共謀の上、自らの経歴や資格を偽って知事に近づき知事を信用させ、後援会預金口座から不正に出金を得しめた詐欺事案だと確信しています」述べています。これにより、上記のとおり、【2000万円問題】について重大な疑惑があるO氏が、同議会での参考人招致を拒絶する理由を述べた県議会議員全員宛ての回答書において、後援会元職員が元監査人と共謀した後援会口座から不正出金を行ったとの虚偽の事実を流布したことが明らかになったものです。かかるO氏の行為も、それをYouTube動画で公開した行為も到底看過できないものです。

「山口」なる人物が引き起こしている一連の問題は、「知事選に向けての大石知事支持者の暴走」であり、立候補を表明している大石知事としても、何らかの対応をとることが不可欠な状況となっています。

  なお、当職は、大石知事及び後援会との関係について元職員の代理人に立場にあり、上記4の問題については、特に強く対応を求めます。

【添付資料】

                                 令和7年11月11日

大石賢吾後援会 事務所長 A 様

                    郷原総合コンプライアンス法律事務所

                             代表弁護士 郷原信郎

                   ご連絡

令和7年11月10日付けファックスの「ご連絡」と題する文書を受信しました。

その文面に、私が「大石知事が記者会見を開かれた際、Aさんが連絡先として示されていた携帯電話番号をマスコの方に教えてもらった」と言ったかのように書かれていますが、私は、「大石知事の記者会見の連絡先となっているAさんの携帯に連絡した」と言っただけです。

後援会元職員から、説明会見の中での「後援会の元職員の方に事実確認の申し入れをしているが対応して頂けていない」との事実に反する発言が行われたことについて、訂正を求めるとともに、もし、事実確認を求めたいとの希望があるのであれば、代理人の私同席で応じることを検討したいということをお伝えすることになり、会見の担当の人に連絡をどなたにとったらよいかを知っているかを元職員に聞いたところ、「Aさんが連絡先と聞いている」とのことでした。A様の携帯番号も、元職員から教えてもらいました。元職員がA様の携帯番号をどのように知ったのかは、私は知りません。

後援会の電話にもかけましたが出られませんでしたし、以前も、何回かけても出られず、ようやく出た方も要領を得ない対応だったので、元職員に聞いていたAさんの携帯電話にかけたものです。

当方としては、ショートメールでも書いたように、上記の訂正要求を直接大石知事に正式にすると公表前提の話になるので、むしろ、会見の担当のA様に直接連絡をした方が、事実確認の話が進みやすいだろうと考えたものです。

私から携帯電話に連絡した際も、「Aさんが会見の連絡先になっているとのことなので」と言ったことに対して、特に異議もありませんでした。書かれているように、電話は30分にも及んでおり、その間、こちらの考え方をお伝えし、A様から、「郷原弁護士の受任は労基署関係だけだと思っていた」などと言われたので、もともとB会長から元職員への連絡に対して「元職員から後援会との関係についての受任通知」をお送りしたこと、その後、後援会のC弁護士から元職員の請求額を全額支払いたいとの連絡があったもので、受任範囲が限定されているなどという誤解は生じる余地がないことをお話ししました。

また、大石知事の側に、いまだに元職員と「元監査人」とが関係があるかのような誤解をされている可能性があることについて、当職が大石後援会との関係で代理人を受任しているだけでなく、元職員から「元監査人」との法的問題についても受任しており、今年3月以降、元職員と「元監査人」とは完全に接触を断っていることも説明しました。A様の方からも「近く弁護士の体制を一新するので、その体制で元職員への事実確認についても検討することになるとの話もありました。

そのような会話が続いていた間、A様からは、「携帯電話の個人情報をなぜ知ったのか」などという抗議は全くなく、私の話の趣旨をご理解の上、「来週木曜日までに返答をする」と言われたので、その電話連絡を待っていたものです。

週明けの月曜日になって、携帯電話への連絡に対して抗議をしてこられるとは思ってもいませんでした。

大石知事には、改めて正式に抗議文をお送りすることになりますが、それにしても、大石後援会のこれまでの度重なる不誠実な対応には呆れているところです。

私は、今回の件で、会見の案内を受けたマスコミ関係者から情報を得た事実は全くありません。記者クラブに厳重に抗議をされるとのことですが、まったくの事実無根なので、記者クラブの方に私にA様の個人情報を漏らしたなどと思い当たる人がいるわけがなく、迷惑極まりないと思います。誤解が生じないよう、この文面を、県政クラブの幹事社に送付しておくことにします。

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大石知事2000万円問題オンライン会見

                               

 昨日(12月16日)行った【大石知事「2000万円問題」オンライン会見】の資料を全文掲載します(会見には、「大石賢吾後援会元職員」も音声のみで参加しました。資料末尾に元職員の発言要旨も添付します)。

大石知事「2000万円問題」に関する直近の動きについて                      

                        弁護士 郷 原 信 郎

                        (大石賢吾後援会「元職員」代理人)

大石賢吾長崎県知事の「政治とカネ」問題について、「山口知宏」なる人物が、「長崎県の闇 を暴く」などと称して、YouTube、X上で、「『元監査人』の正体は『詐欺師』だった」、「大石知事は、詐欺師に騙された被害者に過ぎない」、「選挙コンサルタントは悪くなかった」などと投稿しており、その中で、「大石賢吾後援会元職員(以下、「元職員」)は、元監査人と結託して大石知事を陥れようとしたかのような事実無根の話を拡散されたことで、著しい精神的打撃を受けています。

上記人物は、来年2月の長崎県知事選挙への出馬要請を行うなど、大石知事の支持者であること、上記投稿も大石知事を当選させる目的であることを公言しており、一連の投稿が、大石知事の「政治とカネ」問題について長崎県民に誤った認識を与え、大石知事の選挙を有利に導こうとしていることは明らかです。

元職員が、上記投稿に対する法的措置等の準備のため、資料を改めて確認していたところ、検察審査会において審査中の「2000万円政治資金規正法違反問題」についての大石知事と元監査人とのやり取りに関する記録が発見され、重要な事実が明らかになりました。

そこで、元監査人と元職員、大石知事との各関係、元監査人が大石知事の「政治とカネ」問題に関与した経緯等について、上記投稿の内容との関係を整理した上、新たに把握した「大石知事と元監査人のやり取り」に関する証拠の内容を明らかにします。

1 元監査人と元職員との関係について

まず、最初に明確にしておかなければならないのは、「経歴・職業」について元監査人のウソを、元職員も、その話を元職員から聞いた大石知事も、同様に信じていたものだということです。

そのウソを信じていた元職員が元監査人に短期間の約束で貸付けた金が全く返済されておらず、それについて、当職が代理人として法的措置を受任しているものです。つまり、大石知事が、元監査人に「騙されていた」のであれば、それは元職員も全く同じであり、「財産上の被害者」だということです。

「山口知宏」チャンネルでの最新の投稿の中で、令和7年2月8日付け「長崎県議会全員協議会質問書への回答について」と題する、長崎県議会議長及び全議員宛ての書面が公開され、その中で、選挙コンサルタントが「一連の事案は、元監査人と元後援会事務局職員と共謀の上、自らの経歴や資格を偽って知事に近づき知事を信用させ、後援会預金口座から不正に出金を得しめた詐欺事案だと確信しています」と述べていることが明らかになりました。

元職員が「知事に元監査人の素性を隠そうと意図していたこと」の確信の根拠とされているのは、元職員が元監査人を大石知事に紹介した際に「弁護士資格がある」としていたことについて、「弁護士資格を調査確認することが十分可能だった」という理由です。しかし、この時の3者のやり取りはLINEで、「弁護士資格」というのは「外国の弁護士資格」のことであり、容易に確認できるものではありません(そのような単純な話であれば誰も騙されたりはしません)。

元職員が元監査人と「共謀の上」「知事を信用させ」「後援会口座から不正に出金した詐欺事案」など、全く事実無根であり、元職員に対する重大な名誉毀損です。かかる内容の書面を全長崎県議宛てに送付した選挙コンサル及び書面をネット上で公開した「山口知宏」なる人物については、刑事、民事の重大な法的責任が生じます。かかる書面の公開を作成者の選挙コンサルが了承したのか否かなど事実確認の上、法的措置を検討します。

2 元監査人の位置づけについて

実際の資金移動の実体のない後援会への「2000万円の貸付金」を計上して、信用組合からの借入金返済の資金を得ようとしたのは、上記の選挙コンサルの提案によるものであり、その1年以上後のことで大石知事と関わるようになった「元監査人」は、2000万円貸付金計上や返済を受けたこととは無関係です。

大石知事は、当初、自ら「二重計上」に気づき政治資金収支報告書の訂正を行ったかのような説明をしていましたが、今年10月24日の「説明会見」で記者からの質問を受け、その問題の指摘を受けたのが「元監査人」だったことを認めざるを得なくなりました。

「2000万円問題」について「二重計上」の事実に気付かなかった主張しながら、それに気づいた時期について説明していなかったのは、元監査人に問題を指摘され、「マスコミに発覚したら大変なことになる」と言われて、対応を相談していた事実を知られたくなかったからとしか考えられません。

大石知事が、元監査人と関わりを持つようになった2024年5月以降、大石知事は、元監査人に、自らの選挙資金や政治資金をめぐる問題について相談し、「284万円迂回献金問題」については、田中愛国県議の議会質問を回避することまで相談していました。それに「2000万円問題」が加わり、それをどのようにして切り抜けるかということを相談し、6月19日には、多忙な知事の公務の合間に、元監査人の居住地の沖縄にまで赴いて相談を重ねました。この間、元職員は、元監査人の助言に従って政治資金問題に対応しようとする大石知事の指示に忠実に従って対応しました。

3 オンラインミーティングでの大石知事の発言

今回、元職員は、山口氏にYouTube等で、「詐欺師と結託して大石知事を騙して、不正出金を行った」というようなことを言われ、深く傷つきました。当時の資料を探す中で、スマートフォンに残されたデータの中から、2024年6月9日に、元監査人と大石知事と元職員の3人で、隠蔽の工作について話し合ったオンラインミーティングの記録を発見し、その中で、大石知事が、元監査人に「2000万円」問題の指摘を受け、隠蔽を相談していることが明らかになりました。

当職も、元職員から、この録音記録の該当部分の提出を受け、内容を確認しました。

確かに、大石知事が、1月14日の信用組合からの借入金の流れとは別の12日の2000万円の貸付金に対応する金の流れがなく架空だったことを認めた上で、対応を相談する発言をしています。

以下が、そのやり取りです。

大石知事:聞いてもよろしいですか

元監査人:はい

大石知事:二つあるんですけれども。まず一つは何か、こんなこんなこと聞いたら怒られるかもしれませんが、2000万の貸付の方の1月12日のこの2000万ですね。

元監査人:はい

大石知事:先ほど無くさない方がいいという話あったじゃないですか。

元監査人:はい

大石知事:そこがですね、なんか僕の性格上がないものができてしまうのが非常に不安で…

元監査人:でも知事これね、例えばね、2000万円をね、ないものとして消したとき、これ集中砲火ありますよ。おそらく全国民長崎県民が全員知るわけですよ。

大石知事:はい

元監査人:報道をされるじゃないですか訂正したっていう。そのときに何を訂正した知事が貸し付けたものを貸付なかったということで訂正したっていうことですね。例えば支払いを受けていた。いうようなことを報道されたり、県議が知ったりとかした方が、そっちの方がリスクが高いと思います。

大石知事:なんかもうそこ勘違いでした。最初2000万のつもりでしたっていうのをやっぱ無理で?

元監査人:それじゃ全然通らないですよ。あなた何を考えてるのってなるでしょ。普通は。

大石知事:うん。そうですか。わかりました。その時点でちょっとその心配なのは1月12日に振り込むお金の流れがないっていうところですね。

元監査人:はい

大石知事:私から2000万振り込んだのは事実それは選挙資金、選挙会計で使っているということなんですよね

元監査人:そうです。

大石知事:その分の2000万は多分もう明らかで、医師信用組合からそのまま入ってますと。2000万貸し付けたというところの2000万のお金の動きはどうにかできるんですか? 

元監査人:それを何とかせないかんうん。それをなんとかしてしないと

大石知事:うん

元監査人:それを何とかして。何とかしないと

大石知事は、「後援会の令和4年分の収支報告書において、私からの借入金として計上した2,000万円は、知事選の際に医師信用組合から借り入れて後援会口座に入金した2,000万円と同一のものと考えていた。これとは別に存在しない架空の2,000万円の資金移動をでっち上げて計上したものではない。後援会への貸付けとする金銭消費貸借契約書の締結日が後援会の口座に2,000万円を入金した1月14日ではなく、1月12日となっていたのは、単純な記載ミスであり、後援会から選挙コンサルタントに誤ってその1月12日という日付が伝えられた可能性がある」などと主張していたものです。

しかし、上記の元監査人とのやり取りから、大石知事が、1月12日に振り込むお金の流れがないことを認めた上、医師信用組合からそのまま入っている2000万円とは別に、「貸し付けたというところの2000万のお金の動きはどうにかできるんですか?」と、「金の動き」を事後的に作出することを元監査人に相談していたことは明らかです。

そのような元監査人との話合いの結果行われたのが、架空貸付金の返済の名目で大石知事が受け取っていた約460万円に対応する後援会資金の元監査人側への出金です。これは、2000万円の架空貸付の問題が表面化して追及を受けることを免れるために、実際には存在しない貸付金の返済として後援会から受領した460万円を大石知事が後援会に返金して、それを事後的に解消しようとしたものです。2000万のお金の動きを作ることは実際には行われないまま、元監査人との関係が終了しています。

いずれにしても、大石知事が、「元監査人の提案」にしたがって、「2000万円問題」の隠蔽工作を行おうとしたこと、元職員が、大石知事の指示に従って、後援会の口座からの出金を行ったことは明らかです。

大石知事は、元監査人と呼んでいた人物について、「後援会の資金管理につきまして認識できてない問題点を整理をして、その問題について適正、適法に解決する方法の指導を受けていた」などと説明してきましたが、大石知事と元監査人の関係は、そのようなものではなく、政治資金の問題について隠蔽行為の助言・指導を受けていたことは明らかです。

4 元監査人の「業務終了」の経緯

ところが、その後、大石知事が沖縄に赴くなどして、この重大な政治資金問題について、元監査人に相談を行うなどした後、公選法違反事件への対応のために元監査人から紹介を受けた弁護士との面談を、直前になって大石知事の側からキャンセルしましたが、その直前に、元監査人が大石知事に「業務終了の連絡」を行いました。

この時点で、大石知事は、元監査人に相談するようになって以降疎遠になっていた選挙コンサルや山本啓介議員側と話をして、元監査人と絶縁するように求められたことが原因だと考えられます。「業務終了の連絡」の書面に、「この後はO氏やってもらってください。」「Oは、知事と私に責任を被せようとする供述、都合が悪くなったら黙秘しているから注意して下さい。」などの記載があり、大石知事は、この元監査人からの連絡が、選挙コンサルのO氏に関係していることは認識したはずで、「寝耳に水」だったとは、考えられません。

この点について、同年10月28日の県議会総務員会での集中審議に参考人質疑において、元監査人は、《令和6年6月24日,田中愛国県議に対する答弁終了直後,選挙コンサルタントから後援会関係者に電話があり,答弁で自分のことを「悪く言われた」と激怒していたと聞きました。翌日,25日午後4時14分から18分間,知事から電話があり,「先ほど山本先生から電話があり,昨日の議会答弁のこと,なぜ選挙コンサルタントのことを出すのか,「適正に処理しています」の一言でいいだろうと激怒された。選挙コンサルタントも激怒されているらしく,山本先生から今夜8時半ころに選挙コンサルタントに電話をしてくれと言われました。被告発人同士ですが電話しても大丈夫ですかね?」旨,憔悴しきった声で電話がありました。参考人は、その声を聞いて、せっかく選挙コンサルタントや参議院議員の呪縛という牢獄参考人はその声を聞いて,せっかく選挙コンサルタントや山本参議の呪縛という牢獄から解き放たれたと思った矢先であったが,また元の木阿弥となったことを確信しました。このようなことから、この先、泥船とかに乗るようなことは、これ以上私はできないと判断し、同日午後9時10分、知事からの任務は終了する旨の内容を送信しました。》と述べています。

そして,6月26日午後、元職員は、その日のうちに、「元監査人と結託して後援会の資金を不正出金した」などという、全く事実無根の疑いをかけられ、後援会事務所に出入を禁止され、その後自宅待機を正式に命じられた末に、不当解雇されました。

大石知事は、「政治資金監査」を依頼していた元監査人から、突然「業務終了」を言い渡されたと言っていますが、もし、元監査人側から一方的に言い渡されたのであれば、その直後に、元職員に自宅待機を命じたり、不正の疑いをかけられることはあり得ません。

5 「2000万円」問題の処理について大石知事の元監査人への言動

この「2000万円問題」というのは、大石知事が、選挙コンサルの助言に安易に従って後援会への2000万円の貸付金があったことにして、信用組合への返済原資を得ようとしたことが根本的な原因であり、大石知事の返済金取得と政治資金収支報告書虚偽記入についての責任の有無と、元監査人が「詐欺師」であるか否かとは全く関係ありません。

長崎地検の不当な不起訴処分後の検察審査会への審査申立で、政治資金規正法違反の嫌疑の根拠としているのは、その後援会元職員の供述であり、元監査人の話ではありません。

「山口」なる人物が、「大石知事は被害者」だという話を作り上げるために、元職員が元監査人と結託して不正を行ったかのようなことを公言するに至っていることは、元職員として、断じて許せることではありません。

来年2月の県知事選に向けて出馬表明を行っている大石知事は、大石知事に再選出馬要請を行うなど、大石知事再選支持を明言している同人物が、ネット上で発信を行っていることについて、県議会本会議で、小林克敏県議から質問を受けて十分に認識しているはずです。発信内容が事実に反するものであることを最もよく認識しているはずの大石知事自身が、このまま同人物の発信を放置することは、来年2月の県知事選挙に向け、自らの「政治とカネ」問題について、虚偽の内容を流布しているに等しいと批判されてもやむを得ないと思います。

2期目の選挙での再選をめざす現職知事として良識ある対応を求めるものです。

なお、上記「2000万円」政治資金規正法違反事件については、2025年9月12日に長崎地方検察庁検察官が不起訴処分を行い、10月4日に、長崎検察審査会に審査申立を行っています。上記録音記録は、検察官の事情聴取において、元職員が提出した資料に含まれていますが、本書面も含め、長崎検察審査会に補充資料として提出します。

【元職員 発言要旨】 

 山口氏がYouTubeで発言している件について

~長崎県の闇 元監査人編~より

・元監査人は元職員が紹介と記録に残っている。 画面上のテロップには私から「知事、紹介させてください。国の仕事をしているとても信頼できる方です。」と♡マークをつけて表しています。

→事実は知事が「ご助言いただいている方はどのような方なのでしょうか?」と興味を示し、私は元監査人から聞いていた通りの肩書「海外での生活が長く、今は総務省より特別委託を受けて○○県とかの会計監査をされておられる方です」と伝え、私(元職員)を介しての伝言では伝わりにくいところを整理するために直接二人で初めて通話しています(2024/05/26)。通話終了後に「お繋ぎいただいて感謝申し上げます」とLINEで伝えてきました。この知事と私との一連のやりとりはLINEに残っています。

・その際、元監査人は『総務省匿名委託契約書』を持ってきた。 その頃は、当選直後でバタバタしていた。

その頃は、当選直後でバタバタしていたとの言い分は全く時期が異なる。

『総務省匿名委託契約書』などは持参しておりませんし知事へ渡してもいません。

事実は、

私の後援会の事務職員の方の机の中から、総務省と元監査人を当事者といたします「匿名委託契約書」というタイトルの不自然な契約書が出てきたりもしております。

と令和6年10月2日 臨時記者会見にて発言されておられます。

この私の執務机の中から出てきたとされる元監査人に関する匿名委託契約書は、R6年総務委員会集中審査の際に県議会議長宛ての「抗議文」を書いた人物から大石知事側が提供を受けたものと考えられます。この文書を私は見たこともありません。R6年10月11日付の出口弁護士より質問状に添付されていたのを拝見したのが初めてです。その私の執務机の中から出てきた書面に私の指紋はついていないと断言します。

また、県議会の総務委員会の集中審査の時に、県議会に対する抗議書として、この人物から出ています。抗議書が送られてきたのは10月29日付けとなっております。

大石氏はR6.11月22日の定例記者会見にて(議事録に残っています)、1回目の総務委員会の集中審査の日(9月)にそれを見ていた人物が私(大石知事)宛に直接連絡をいただいたと述べています。がしかし、直接大石知事に連絡をできるダイレクトメールなどはありません。事実はYouTubeで配信中にチャットでつぶやいたその人物に大石知事自身或いは周辺者がコンタクトをとったものと考えられます。

・元職員が「知事から了承を得た」と460万を元監査人に送金している。「知事はそういった指示は全くしていない」と述べている。そもそもこの2人信用できるの?普通に考えて信用できないですよね。なので、それ捜査すれば分かるんですよ。

この件については令和7年3月19日 記者会見においてこのようにのべておられます。

この元職員に関しましては、元監査人を私に紹介をしてきた方でもございます。二人は親しい、恐らく親しい間柄でもあるように思いますので、元監査人の意を受けて、私に改めてお金の流れといったことを説明してきたのではないかなというふうには思います。
 ただ、私はですね、その当時、そのスキームの内容はよく理解できていませんでしたし、適正な方法なのか、まず疑問を感じたところがあります。なので、私は自分で借りようとしていたところもありますし、説明については聞きおきはしたものの、これまで申し上げているとおり、実行について了解をしたことは全くありませんので、そのことは改めて申し上げておきます。

→この送金は知事より指示を受けて行ったものです。

R6/6/9のZOOM会議では、スキームの内容までは決まらなかった。

実際には翌日(R6/6/10午前中)、元監査人と大石知事が2人で話し合いこのスキームの詳しい内容を決めた。その後、各々から私へ電話があり内容を確認し指示に従いその日に100万送金した。後日送付されてくる業務委託契約書へ押印するようにとも口頭で指示されました。

私はその日の夕方知事室に出向き、この件と286万の件を知事へ報告しています。

この時に説明している音声は元監査人がXで発信したもの(郷原弁護士より削除依頼していただきました)が流出したのです。

当時、知事は私どもに 「全力でお支えいただいていること、感謝してもしきれない気持ちでいます。また、元監査人のことは、大変心強い方。お話しさせていただく前から学ぶべきことが多くあると感じています。お話しできる機会を心待ちにしています。」と元監査人に対して全幅の信頼をお持ちでした。ラインにその会話は残っています。

・何が厄介かって、辞める時にこの職員もね、クビになってるのかと思います。この時に要は事務所のデータを全部抜いているんですよ。 ブログに公開とか勝手にしているので、明らかに事務所のデータを抜いてるんですよね。なので、要は好き放題良い感じに編集できるじゃないですか 

 →一方的な自宅待機命令であり、書類等の持ち出しを防ぐために事務所への出入りを禁止しました。データは監査に必要なものは小橋川へ提供したもので、他は私のスマホ内に保存していたものです。小橋川がブログで発信しているもの(LINE等も全く編集はしておらずありのまま)です。

 元職員の勢力の皆さんと動画で言われていますが、私はだれとも組んでいないですし郷原弁護士に代理人となっていただき粛々と真実を述べているだけです。

 山口氏は、大石知事が記者会見等で述べていること全てが真実で嘘偽りがないという前提で話をしています。それこそが根本的な誤りです。真相を知らずに自らが傷口を広げていることに気が付いていません。

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兵庫県情報漏洩問題、斎藤知事「起訴」の可能性と「政治上の説明責任」を考える

2024年3月、当時の西播磨県民局長が、斎藤元彦知事や県幹部を告発する文書を匿名で複数の機関に送付した。知事らを告発する文書が県議会議員、マスコミ等に送付されたことに端を発し、告発者の私的情報を県職員が漏洩したことから、これが県庁の内部告発問題に発展した。

この兵庫県の秘密漏洩問題については、2025年5月の「秘密漏洩疑いに関する第三者委員会」(以下、「第三者委員会」)報告書で、E元総務部長が県議会議員に元県民局長の私的情報を漏洩したと認定し、知事らが指示した可能性が高いとも指摘した。

これを受け、上脇博之神戸学院大教授が、

「斎藤元彦氏は昨年4月上旬ごろ、疑惑告発文書を作った元県西播磨県民局長の男性の私的情報について、議会側に知らせておくようE氏に命じたか、そそのかし、当時の総務部長のE氏が県議3人に文書や口頭で漏らした」

との地方公務員法(以下「地公法」)違反容疑の告発状を神戸地検に提出し、8月20日に受理されている。

当初、漏洩の事実を否定していたE氏は、その後、

「知事や元副知事の指示に基づき職責として正当業務を行った」

と主張し、副知事であった片山氏も、斎藤氏指示の報告を受け

「必要やな」

と容認したなどとしている。一方、斎藤知事はE氏への指示を否定している。

兵庫県の斎藤知事をめぐる事件については、今年11月12日に、いくつかの告発事件について同時に不起訴処分が行われたが(私が上脇教授とともに告発を行った公選法違反事件については、不起訴処分に対して検察審査会に審査申立中)、上記地公法違反の告発事件についての刑事処分は未了である。秘密漏洩の外形的事実を一応認めた上で「正当業務を行った」とするE氏の主張の当否、第三者委員会報告書が「可能性が高い」とした斎藤氏の指示の有無など、事実認定上、法律適用上の問題があり、これらを中心に、神戸地検の捜査と処分に向けての検討が行われていると思われる。

この元県民局長の私的情報の漏洩問題について、刑事事件としてどのような点が問題となるのか、神戸地検の判断はどうなると予想されるのか、刑事実務家の立場から、私なりの分析を行ってみたい。

懲戒処分と刑事処分の違い

最初に指摘しておきたいのは、第三者委員会報告書は基本的に県に対しての指摘であり、地公法違反の秘密漏洩問題への対応も、県として行い得る懲戒処分を念頭に置いたものと考えられることである。

同報告書では、

《地方公務員は、職務上知り得た秘密を漏らしてはならないとされており(地公法34条1項第1文)、この義務に違反して秘密を洩らした者は1年以下の拘禁刑又は50万円以下の罰金刑に処せられるとされている(同法60条2号)。》

と秘密漏洩罪に対する罰則を引用した上、

「秘密」とは、 「一般的に了知されていない事実であって、それを了知せしめることが一定の利益の侵害になると客観的に考えられるもの」であるとされている(行実昭和30年2月18日自丁公発第23号)。また、それは、単に本人が主観的に秘密とすることを欲する事実であれば足りるものではなく、客観的に見て本人の秘密として保護に値するものでなければならないとされている。

としている。

ここで引用されている「秘密」の定義は、行政実務に関するものであり、犯罪としての秘密漏洩罪における「秘密」の解釈ではない。同報告書は、秘密漏洩行為が地公法違反の犯罪に該当するとして県に告発を行うことを求めているものではない。

つまり、第三者委員会報告書の認定事実は、そのまま、地公法違反の犯罪の嫌疑に直結するものではないということである。刑事事件として考える場合には、事実認定のレベルと法適用のレベルの両方から別途の検討が必要になる。

事実認定に関しては、そもそも第三者委員会の認定事実の中に、E氏が県議会議員に漏洩した情報の「内容」が含まれていない。3名の県議会議員は、いずれも

「E氏から、元県民局長の私的情報について口頭での説明を受け、紙に印刷された資料を提示等された」

と供述しているが、その中身を見たとは述べておらず、報告書の認定事実には「漏洩した情報の内容」は含まれていない。

刑事事件としての秘密漏洩は、その内容が特定されて初めて「漏洩罪」の成否を論じることができる。

国家公務員法違反の秘密漏洩の刑事事件について、過去の判例等で問題となってきたのは、行政機密の保護の必要性と国民の「知る権利」「報道の自由」との相関関係を背景に、報道機関が取材・報道目的で行政情報を入手した行為についての秘密漏洩罪の成否についての「形式秘説」と「実質秘説」の対立であった。漏洩の対象となる「秘密」とは、行政機関が秘扱等の表示により一般に知られることを禁ずる旨を示した事項を指すのか、それとも、内容的にみて秘密として刑罰による保護に値する実質を持つ事項を指すのかという点だった。外務省機密漏洩事件(「西山事件」)等の判例で、「形式秘」であるだけでなく、「実質秘」であることも犯罪としての秘密漏洩の要件になるとの見解がほぼ確定的なものとなっている。

少なくとも、漏洩した情報の内容が特定されることで初めて「実質秘」か否かを論じることができるのであり、単に「県が秘密として保持している情報を県職員が外部に漏洩しようとして提示した」というだけで秘密漏洩の犯罪が成立するわけではないことは明らかだ。

県の懲戒処分としては、そのような県として秘匿すべき個人のプライバシーを含む情報を漏洩しようとする「県職員の行い」自体で、「公務の運営に重大な障害を生じさせた」と評価することも可能であろうが、犯罪としての地公法違反とは決定的に違う。

第三者委員会報告書において、

当委員会としては、E氏の漏えい行為は、知事及び元副知事の指示のもとに行われた可能性が高いことに加え、口頭でその概要を抽象的表現で述べるとともに、紙に打ち出された資料の一部を提示するにとどまっており、これを実際に交付するなどのことはしておらず、しかも、開示を受けた3議員側が目を背けるなどして消極的に対応したことから、その私的情報の概要は把握できても、具体的内容を現実に認識したとまでいえるものではないことは留意されるべきである。

と述べているのも、E氏の漏洩行為の地公法違反についての事実認定の限界、とりわけ、犯罪としての違反認定とは異なることの注意喚起を含む趣旨であろう。

ということで、この秘密漏洩問題については、少なくとも、第三者委員会報告書の認定事実だけでは、実行行為者のE氏についても地公法違反の秘密漏洩罪を認めることは困難だ。

告発後の捜査による漏洩内容の特定の可能性

もっとも、告発を受けての捜査によって、E氏が、県議に、単に提示しただけでなく、私的情報の中身をある程度知らせた事実や、他の人にその私的情報の中身を漏洩したなどの事実が明らかになれば、秘密漏洩の犯罪を認める余地も出てくる。

E総務部長による元県民局長の私的情報の漏洩について報じた週刊文春(令和6年7月25日号)記事では、

「人事課を管轄する総務部長が、大きなカバンを持ち歩くようになった。中には大きな二つのリングファイルに綴じられた文書が入っており、県職員や県議らにその中身を見せて回っていたようです」

「リングファイルの中身は、押収したPCの中にあったX氏の私的な文章。どうやらその文章は、四人組によって、県議や県職員の間に漏れていたようです。事実、私もこの四月に産業労働部長から文章の内容を聞かされました」

「六月ごろから、今度は維新会派の県議たちの間にも私的文章が流出したようだ。すると、維新の岸口実県議と増山誠県議が、百条委員会の場でX氏(元県民局長)のPCに入っていた全てのファイルを公開するよう強く主張し始めた」

などとされており、告発を受けての神戸地検の捜査によって、県議等に私的情報の中身を提供した事実が明らかになる可能性もないとは言えない。

仮に、E氏が元県民局長の私的情報を県議に漏洩した事実及びその情報の中身が特定できたとすれば、地公法違反の秘密漏洩の犯罪の外形的行為は認められることになる。

E氏は、知事に対し、「元県民局長の公用パソコン内に、元県民局長の私的情報にかかる大量の文書等があることが分かった」などと報告したところ、知事から

「そのような文書があることを、議員に情報共有しといたら」

と指示されたと主張しており、片山氏の供述とも整合している。

斎藤氏は、そのような指示はしていないと述べているが、E氏、片山氏と斎藤氏との関係性からしても、この点についてのE氏の供述の信用性は高いと考えられる。

「斎藤知事の指示」はあったと認められる可能性が高く、E氏の秘密漏洩の外形的事実と漏洩した秘密の内容が一定程度明らかになれば、「命じたか、そそのかした」と認められる可能性が高いようにも思える。

秘密漏洩罪の対象としての「秘密」該当性

しかし、この場合、漏洩した「情報」が、秘密漏洩罪の対象となる「秘密」に該当するのか否かが問題になる。

前記のとおり、判例上、秘密漏洩罪の対象となる「秘密」は、「形式秘」であるだけでなく、「実質秘」であることが必要と解されているが、「実質秘」に該当するかを論じる上でも、「行政機関が秘扱等の表示により一般に知られることを禁ずる旨を示した事項」という「形式秘」の要件を充たすこと、つまり、行政機関側が「秘密」として取り扱っていることが前提となる。それについて、秘密指定が権限ある者によりなされているか、指定が明示的であるか、あるいは適切な取扱いや管理が行われているかなどから判断されることになる。

もっとも、法律の規定により当然に秘密として秘匿されるべきとされているものである場合は、「実質秘」性を論じる必要もなく、「行政機関による明示的な秘密指定」は不要である。例えば、国家公務員である検察官や、地方公務員である警察官が、刑訴法上の権限によって収集した証拠の内容は、法律が当然に「秘密」としているのであり、行政機関の長による秘密指定がなくても、秘密漏洩罪の対象としての「秘密」である。

では、E氏が漏洩した可能性がある元県民局長の「私的情報」が、秘密漏洩罪の「秘密」の前提条件を充たしているといえるか。

第三者委員会報告書において、E氏による漏洩の対象とされているのは、この元県民局長の公用パソコン内にあった私的情報を人事課担当者が県庁に持ち帰り、そのうちの一部のファイルを印刷して保管したいわゆる「緑ファイル」だ。

報告書によると、E氏は、総務部職員に、私的な文書の内容が分かる資料の作成を指示し、職員の一人が自らの判断でフォルダから適宜抜粋し、会談室で、勤務時間外に、マスター用1部を片面印刷で、その他の4部は両面印刷で計5部印刷し、これらをいずれも緑色の厚綴じフラットファイルに綴ったうえで、E氏のほか総務部幹部4名に両面印刷のファイル各1部を手渡し、残りのマスター用1部を人事課内の鍵付きロッカー内に保管したとされている。

このような経緯からは、この「緑ファイル」は、E総務部長の指示により総務部内でごく僅かの人間が所持していたものであるが、組織として秘密事項として指定した上で管理していたと言えるかは疑問だ。

「緑ファイル」は秘密漏洩罪の「秘密」か

では、この「緑ファイル」が、秘密漏洩罪の対象としての「秘密」の前提条件を充たすのか。

そもそも、この元県民局長の公用パソコン内にあったデータを、県の人事課担当者が持ち帰ることになった「調査」は、斎藤知事の指示により、県議やマスコミに送付された告発文書の犯人探索のために人事担当部局で行われたものであり、そのような「告発者の探索」を行うこと自体の適法性についても問題が指摘されている。

少なくとも、刑訴法の権限に基づく犯罪捜査のような定型的業務や手続ではなく、収集した資料が法律上当然に「秘密」とされるとは考え難い。個人のプライバシー情報を公的権限によって取得したものであることから「秘匿すべき要保護性」は高い。しかし、「緑ファイル」については、総務部長によって秘密指定や適切な取扱い、管理が行われていたとは言い難い。秘密漏洩罪の対象としての「秘密」の前提条件を充たしているかどうかには疑問がある。

「斉藤知事の指示」と秘密漏洩罪の成立との関係

前記のとおり、E氏の漏洩行為は「斎藤知事の指示」によるものであったと認められる可能性が高い。しかし、仮にそのように認定できる場合、秘密漏洩罪の成否について、困難な問題が生じることになる。

国公法、地公法が規定する「秘密漏洩罪」は、当該行政機関が「秘密」としている情報を漏洩する行為であり、その行政機関の長が「漏洩」を指示したり容認したりしたのであれば、それは、「形式秘」に該当せず、秘密漏洩罪の対象としての「秘密」に該当しないと考える余地がある。

なぜなら、従来の判例において問題にされてきたのは、「形式秘」であっても「実質秘」に該当しない「秘密としての保護に値しないもの」があると言えるか否かであり、「形式秘」の指定権者が、「実質秘」に当たる情報を開示することは想定されていなかったためである。

前記のとおり、E氏が漏洩した可能性がある「緑ファイル」は、要保護性が高い個人情報であるが、秘密としての指定や管理状況からは、秘密漏洩罪の対象としての「秘密」に該当するか否か疑問がある。

それに加え、その漏洩行為について、秘密指定の権限を有する行政機関の長である知事自身が、「そのような文書があることを議員に情報共有するように」との指示を行っていたとすれば、行政機関の長として漏洩を指示ないし容認し、議員との情報共有に関して「秘密の指定」を解除したことになる。

行政機関としての「形式秘」を重視する考え方を徹底すれば、その「秘密指定解除」が法律の規定に違反し、或いは裁量権を逸脱するものでない限り、秘密漏洩罪は成立しないことになる。

一方、秘密漏洩罪の「実質秘」該当性は裁判所の判断によるべきとの考え方に立つと、行政の長が「形式秘」の指定を解除して漏洩する行為についても、秘密漏洩罪の成立が肯定される余地があることになる。

斉藤知事の裁量権の逸脱の有無

そこで問題となるのが、行政機関の長が「漏洩」を指示したり容認したりしていた場合、それが法律の規定に違反し、又は裁量権を逸脱すると言えるか、或いは、「形式秘解除の指定」によって「実質秘」を漏洩したものと評価し得るかである。

E氏が漏洩した可能性がある「緑ファイル」は、要保護性が高い個人情報であり、それは、県として秘匿すべき情報として指定し、適切な管理を行うべきであった。しかも、その情報は斎藤知事の指示により、県議やマスコミに送付された告発文書の犯人探索のために人事担当部局の調査で収集されたものである。そのような「告発者の探索」を行うこと自体の適法性自体にも問題がある。それは、「斎藤知事の指示」による行政機関の長としての「形式秘」からの除外が、裁量権の逸脱、無効とみる理由にもなり得る。

しかし、このような「告発者の探索」について、「文書問題に関する第三者調査委員会」(以下、「文書問題第三者委員会」)の違法の指摘にもかかわらず、斎藤知事は、「誹謗中傷性の高い文書」への対応として適切・適法だったと主張しており、その結果収集された元県民局長の私的情報についても、告発者に関する情報開示の必要性を強調するであろう。

このような斎藤氏の主張を否定して、「秘密指定の解除」が裁量権の逸脱であって無効とし、或いは「実質秘」の漏洩に該当するとして、行政機関の長の行為を秘密漏洩罪で起訴し、裁判所の判断に委ねるというのは、検察当局にとっても著しく困難である。

結局のところ、告発の根拠とされた第三者委員会報告書の認定事実には「漏洩した情報の内容」が含まれておらず、それだけでは秘密漏洩罪に当たるとは言えない上、刑事事件の捜査で漏洩した私的情報の内容が特定できたとしても、県が入手していたその元県民局長の私的情報を内容とする「緑ファイル」が秘密漏洩罪の対象としての「秘密」に該当するか否か疑問であること、仮に、漏洩について斎藤知事の指示があったとすると、それが「秘密指定の解除」として秘密漏洩罪の成立を否定する事由にもなり得ること、という2つのハードルがあり、E氏も含めて、秘密漏洩罪での起訴の可能性は極めて低いと言わざるを得ない。

公選法違反の告発事件との比較

この秘密漏洩の告発に対して、検察が不起訴処分をした場合、上記の通り、それは秘密漏洩罪の成否についての根本的な問題によるものであり、検察審査会に申立てても覆ることはないと考えられる。

一方、既に検察の不起訴処分が出されている斎藤知事の公選法違反については、検察の判断によって告発の根拠となった嫌疑が否定されたとは考え難く、検察審査会への申立に対する判断が注目される。

比較の対象としての公選法違反事件について付言すると、この告発において公選法違反の嫌疑の根拠としたのは、①折田note投稿の内容から、折田氏ないしmerchu社が斎藤氏の当選のためにSNS広報戦略を主体的裁量的に行ったと認められること、②知事選のボランティアでの選挙運動をしてくれる人を探す中で、斎藤氏自身がmerchu社を訪れ、そこで、SNSによる広報戦略についてのプレゼン提案を受けたが、その後、折田氏にはボランティアで選挙運動をやってもらうことにする一方で(実際に、折田氏は、動画撮影・編集、SNSアカウント開設・運用等を行っている)、merchu社には「ポスター、チラシデザイン制作」「公約スライド制作」等の5項目のみ71万5千円で発注したとの代理人説明が不合理であること、③上記の①②から、71万5千円は、折田氏ないしSNS運用等のmerchu社が行った選挙運動の対価である疑いが強いこと、④71万5千円の対価支払の対象業務とされた「ポスター、チラシデザイン制作」「公約スライド制作」も、実際に行った業務の内容が「選挙運動」であり、その対価の支払は買収罪に当たること、の4点であった。

検察の不起訴処分の理由は、③について「71万5千円は、選挙運動以外の対価である可能性が否定できないこと」と説明されただけで、①②④についての説明はなかった。逆に、①については、その後の報道等で、折田noteの信用性を裏付ける事実が出てきている。

検察審査会への申立では、少なくとも④について公選法違反の成立は明らかであり、不起訴処分後の産経新聞による「merchu社が斎藤氏側に送付した見積書」の内容から、③の疑いが一層強まった上、④についても、merchu社側の「兵庫県知事選挙に向けたブランディング・広報」という明らかに選挙目的の業務に含まれる提案の一部を5項目として切り出している「ポスター、チラシデザイン制作」「公約スライド制作」等が斎藤氏に当選を得させるための選挙運動であることを一層強く根拠づけると主張した。

検察の不起訴処分には行政組織の関係が影響している可能性があり、検察審査会の「市民の常識」によって判断が覆ることが期待される案件である。その点において、上記のように犯罪事実の認定や法律適用の判断に関して多くの困難な問題がある秘密漏洩罪の地公法違反の事件とは大きな相違がある。

「兵庫県斎藤知事問題」をめぐる「司法判断」と「政治責任」

以上のとおり、秘密漏洩問題では、斎藤知事が刑事責任を問われる可能性は極めて低いと言わざるを得ない。しかし、そのことは、決して、この問題について斎藤知事の責任全般を否定するものではない。

秘密漏洩罪の成立を否定する理由の一つとなる「秘密」に該当しない可能性という問題は、元県民局長の個人のプライバシーを含む要保護性の高い情報を内容とする「緑ファイル」の管理を適切に行わなかっただけでなく、それを県議会議員と情報共有することを指示することで、本人の了解もなく第三者への開示を指示するという県の情報管理の最高責任者としての義務に著しく反する行為によるものである。しかも、それは、斎藤知事自身が指示した「告発者の探索」や「記者会見での公務員失格批判」等の告発文書への対応を正当化するという「私的目的」によるものであることが強く疑われる。

かかる事情を考慮すれば、秘密漏洩罪の告発事件について検察の不起訴処分が行われたとしても、それを機に、刑事責任とは別個に、斎藤知事の政治責任が厳しく問われるべきであろう。

一方、公選法違反事件については、上記のとおり、検察審査会の申立において、実質的な判断が期待される状況にあるが、不起訴処分で刑事事件につい決着がついたかのように述べている斎藤知事には、告発の嫌疑の根拠となった上記①~④のうち、少なくとも斎藤氏自身が直接関わっている②については重大な説明責任がある。

ところが、斎藤知事は、刑事処分が出されるまでは、「代理人に任せている」として一切の説明を拒絶し、刑事事件の取調べでいかなる説明を行ったのかも不明で、不起訴処分後も全く説明を行っていない。

斎藤氏は強大な権力を持つ地方自治体の首長であり、その権力者としての地位を得た知事選挙における公選法違反の疑いの発端となったのが、斎藤氏が県知事の職務の中で深い関わりがある折田氏のmerchu社を自ら訪問し、SNS運用等について話し合ったことである。斎藤氏が、告発事件について検察の不起訴処分で「決着がついた」と考えるのであれば、それを前提に、少なくとも②についての説明をするべきではないか。

merchu社はSNS運用や広報戦略を専門とし、兵庫県を含む、自治体における行政関連業務を得意とし、兵庫県とも関係性があった。例えば選挙前、merchu社は斎藤県政下の兵庫県から「ひょうご・こうべ女性活躍推進企業」や「ひょうご仕事と生活の調和(ワーク・ライフ・バランス)推進企業」として表彰を受けており、正社員わずか数名の小規模企業ながら、県の公報誌などで折田氏の活躍が度々紹介され、県HPトップページで「優良企業」としてPRされていた(2024年11月下旬に削除)。そして、同社は、兵庫県とは直接の契約関係はないものの、県が運営する地域情報アプリ『ひょうごe-県民アプリ』のリニューアルについて、再委託という形で関与している。

折田氏個人も、「兵庫県地域創生戦略会議」の委員、「兵庫県eスポーツ推進検討会」の構成員、「次世代空モビリティひょうご会議」の有識者(構成員)に任命されており、県の政策立案に関与していた。

このように県知事の職務上、公務で一定の関係性があり、また、業務上(特に将来的に)関係がないとはいえないmerchu社を、斎藤氏自らが訪問し、知事選挙での選挙関連業務を発注し、一方で選挙の応援を受けること、それは、仮に無償のボランティアであったとすれば、なおさら重大な問題があると言える。その点に関して、斎藤氏には、刑事責任とは別個に重大な政治的説明責任がある。

司法判断への関心集中と「分断対立」の激化、政治的説明責任による解消を

斎藤知事の問題をめぐる兵庫県の「分断対立」は、知事選での斎藤氏再選後1年を経過しても、一層激しさを増している。

発端となった元県民局長の告発文書への対応の問題については、文書問題第三者委員会報告書において、公益通報者保護法違反の指摘のほかに、原因・背景分析等として、斎藤県政下におけるパワハラの背景になった構造的問題についても掘り下げた分析が行われ、極めて示唆に富む指摘が行われているが、斎藤知事は、報告書について「真摯に受け止める」と述べるだけで具体的には言及せず、同委員会の公益通報者保護法違反の指摘についても「他の見解もある」と述べて受け入れない。

これについては、罰則が適用される問題ではなく、「司法判断」に訴える術がないため、消費者庁の見解や国会答弁等を根拠とする「公益通報者保護法違反を受け入れない知事」との批判だけがエスカレートしている。

知事定例記者会見では、実質的には何も答えない斎藤知事に対してフリーランスの記者等からのエキサイトした質問追及が繰り返され、庁舎の周辺では「斎藤知事辞めろ」デモの騒音で近隣にも迷惑が生じるという異常な事態になっている。

斎藤知事側、追及する側双方の姿勢に問題があり、相互不信による対立の激化が、外部の「司法判断」による解決を期待することにつながっているのであるが、本来、兵庫県という地方自治体組織の長たる県知事の信頼に関する問題なのであり、県民の負担により設置された第三者委員会報告書の記述、指摘等に基づいて、兵庫県としての議論が尽くされ、解決が図られるべき問題である。しかし、これまでの経過を見る限り、それが十分に行われてきたとは考えられない。問題の追及、議論が不十分なまま外部の「司法判断」に委ねようとしても、そこには限界がある。

マスコミや県議会が、斎藤知事に対して、明らかになっている事実に基づいて政治的説明責任を適切に追及し、斎藤知事が正面から説明・答弁することを通して、良識ある県民の問題意識と理解を深めていくことが必要である。それなくして、「兵庫県の分断対立」が解消に向かうことは期待できない。

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兵庫県斎藤知事をめぐる分断対立を背景とする「SNS侮辱略式起訴騒ぎ」と“公文書偽造・同行使罪”の疑い

今年6月、ある「侮辱罪による略式命令」をめぐって「騒ぎ」が発生した。

発端は、阪神・淡路大震災30年の慰霊のために神戸を訪問された天皇皇后両陛下と斎藤知事との写真に、百条委員会で斎藤知事を追及した県議会議員の丸尾牧氏の名前を出して「丸尾が黒幕」などのセリフを重ね合わせた画像等が、「北海道の歩き方」と称するX(旧ツイッター)の匿名アカウントに投稿されたことだった。

それに対して、個人でYouTubeチャンネルを開設し、毎日、YouTube動画による配信を行っている元民放局アナウンサーの子守康範氏が、自身のYouTubeチャンネルで「度を過ぎた遊びとも言えないことをやっている奴らがいる。」「単なる頭おかしい奴らが書いていて」などと発言したことに対して、匿名アカウントの運用者(後述するように、被害者特定事項秘匿制度の対象とされ、告訴人氏名は刑事事件でも秘匿されている。以下、運用者を「A」という。)が刑事告訴を行い、子守氏が侮辱罪で9000円の科料の略式命令を受けた。

本来、略式手続は、公判と異なり非公開で、少額の罰金・科料を支払うことで刑事事件を決着させる手続である。14日以内に正式裁判を申立てれば略式命令は失効し、通常の公判手続に移行する。実際に、その後、子守氏は、この略式命令に対して正式裁判申立を行っており、無罪主張をする方針を明らかにしている。

ところが、この件に関して、検察が公表もしていないのに、「略式起訴」がネット上で公開され、騒ぎに発展した。それは、略式命令が出された直後、まだ子守氏に命令書が送達されていない時点で、Aが、検察官名義の告訴人A宛ての「処分通知書」を一部マスキングして添付し、起訴されたことが子守氏だとわかるような内容のX投稿を行ったことによるものだった。

それを受けて、弁護士の福永活也氏が、Xに、

「書類送検どころか、子守康範氏が起訴されたという情報が入ってきましたが、本当ですか!?」

と投稿、略式手続に対する同意書に署名しただけで、略式命令の送達も受けていなかったため、その時点では「起訴」されたとの認識がなかった子守氏は、

「デマ拡散の魚拓いただきました。裁判所で会いましょう!」

と反応した。しかし、その後、処分通知書がX上にアップされていることを知り、YouTubeで「略式起訴」されたことを認めて謝罪した。

これを受け、福永氏は、

「子守康範氏が侮辱罪で起訴され、犯罪者となります。」

と題するYouTube動画を配信し、その直後、立花孝志氏が、自身のYouTubeで

「おい、犯罪者子守康範、てんコモリスタジオの元TBS系MBSアナウンサー」

「起訴されたんやろ。略式受け入れるんやろ。犯罪者確定やないか、前科持ちやないか!」

などと、SNS上で子守氏のことを「犯罪者」「前科者」などと騒ぎたてた。

「北海道の歩き方」と称する匿名アカウントの運用者Aは、X、YouTubeなどの投稿を行っている。その投稿では、百条委員会で斎藤知事を追及した竹内英明元県議(斎藤知事再選後に県議を辞職し、今年1月に死亡)、丸尾牧県議等の「反斎藤派」を揶揄する投稿を続けており、その中で、竹内元県議や、告発文書の作者である元県民局長の写真を便器や汚物と重ね合わせるコラージュを投稿するなど、非常識な投稿を行い、「批判の炎上」により注目を集めて視聴数を稼ぐ、というやり方を繰り返している「斎藤派」の匿名投稿者である。

その「北海道の歩き方」のX投稿を批判した子守氏は、YouTube等で、兵庫県知事をめぐる問題に関して、元県民局長の告発文書に対する斎藤知事の対応等を批判してきた。反斎藤派の中心人物と目され、斎藤派からは反感を持たれている。

子守氏が侮辱罪で起訴されたことを伝えるYouTube動画を配信するなどした福永活也氏は、NHK党の立花孝志氏の支持者である。立花氏は、昨年11月の兵庫県知事選挙に「斎藤氏を応援するため」と称して立候補し、「2馬力選挙」で斎藤氏の当選に貢献したとされている「斎藤派」であり、福永氏は、2024年の衆議院議員補欠選挙東京15区にNHK党から立候補したこともあり、YouTube等で「反斎藤派」を批判する発信を行っている。

このように、「SNS上での侮辱」をめぐる科料9000円の略式命令が「騒ぎ」に発展した背景には、兵庫県斎藤元彦知事をめぐって続く「斎藤派・反斎藤派」による分断対立の構図があるのである。

この問題は、侮辱罪の法定刑引上げの刑法改正、被害者特定事項秘匿制度の導入の刑訴法改正など、最近の刑事法改正の法運用だけでなく、本来、非公開の手続である略式命令の運用にも関わるものである。この事件に対する検察庁・裁判所の判断如何では、今後、SNS上で発生する同種の問題が、刑事司法の世界に大量に持ち込まれることになりかねない。

私も、ネット上での「騒ぎ」の時点でこの問題に関心を持ち、ネット上で入手し得る限りの情報を収集した。それによって把握した事件の経過と事実関係に基づき、この事件が今後の刑事司法の運用に与える影響も含めて解説することとしたい。

「北海道の歩き方」の投稿と、子守氏の発言内容、刑事事件化の経過

令和7年1月16日、天皇皇后両陛下が、阪神・淡路大震災から30年の追悼式典に参加されるため神戸空港に到着された際に、斎藤知事が出迎えた場面の映像に、両陛下と斎藤知事の会話を重ね合わせた以下のような画像をアップした。

このX投稿へのリプライとして、「北海道の歩き方」自身が、

    天皇「竹内君は消しといたから」

    斎藤知事「有難きお言葉」

などと付け加えている。

これを見た子守氏は、同日、「てんコモリスタジオ」でのYouTube配信で、

北海道の歩き方というXアカウントがありまして炎上しております。

ふざけたことをやりよったんですね。

と述べて、そのような心ない投稿が、いかに大震災被害者の心を傷つけるものであるかを話す中で、

度を過ぎた遊びとも言えないことをやっている奴らがいる。

単なる頭おかしい奴らが書いていて、脳内麻薬が出ているのかしりませんが、薬打ってるような感じで

などの表現も使った。

前記のとおり、「北海道の歩き方」のAは、SNS上で、竹内元県議や元県民局長など故人の写真と便器・汚物を組み合わせた侮辱的な画像の投稿を繰り返すなど、度の過ぎた悪ふざけ投稿を繰り返してネット上で注目を集め、多くの視聴を獲得して利益を上げている。死者に対する侮辱罪がないことからこの点は罪に問うことはできないが、遺族の心情を思うと、その所業は凡そ許せることではない。

そして、そのAの悪質性が極端なまでに表れたのが、阪神・淡路大震災30年の慰霊のために神戸を訪問された天皇皇后両陛下と斎藤知事との会話に「黒幕」「丸尾」などの言葉を重ね合わせた画像の投稿だった。

しかも、それに天皇陛下のセリフとして、

《天皇「竹内君は消しといたから」》

などという言葉まで書き加えている。

その投稿の2日後の1月18日に、竹内元県議は自ら命を絶った。

大震災から30年、両陛下の慰霊訪問を厳粛に受け止め、6434人の犠牲の御霊に静かに祈りを捧げたいと思う兵庫県民にとって、その両陛下と斎藤知事との会話に、兵庫県の分断対立を象徴するような言葉を重ね合わせ、心をかき乱すような投稿がネット上で拡散されていることに対して、強烈な反感を抱くのは極めて自然な反応であろう。両陛下と丸尾牧議員、竹内元議員を誹謗中傷するものであり、一般人の常識からは考えられない悪質な投稿である。

子守氏が、「度を過ぎた遊びとも言えないことをやっている」「単なる頭おかしい奴らが書いていて」と表現することも、むしろ「当然の反応」と言うべきであろう。

しかも、同投稿では、天皇皇后両陛下と斎藤知事の会話として「で、結局誰が黒幕なの?」「丸尾です」「やはりですか…」「不敬罪で収監して!!」などのやり取りが記載されている。この会話の中の「丸尾が黒幕」というのは、昨年11月の兵庫県知事選挙の、選挙期間中にSNS、街頭演説等で発信し、丸尾牧氏ら斎藤知事を追及する側の県議会議員に対する批判として流布されることで選挙結果にも大きな影響を与えた「政治的発言」である。しかも、同言説はもともと極めて根拠薄弱で、後日、「デマ」であることを発言者の立花氏自身も認めている。

憲法上、「国民の象徴」であり、政治的発言を禁じられている天皇陛下が、兵庫県知事選挙で立花氏が発言したフレーズを用いて兵庫県知事と会話をしているかのような、国民にとっても到底許容できない表現を含んでいるのであり、投稿の異常性、反社会性は際立っていると言わざるを得ない。

ところが、このような非常識極まりないX投稿を批判された「北海道の歩き方」のアカウント運用者のAは、上記の子守氏の発言が名誉毀損に当たるとして、同年2月初め、兵庫県警に告訴状を提出した。

兵庫県警は、A、子守氏の聴取、YouTube発信の現場の確認等の捜査を行って、書類を神戸地方検察庁に送付、神戸地検では刑事部のT検事が担当し、子守氏を取調べた上、6月16日に、侮辱罪で神戸簡易裁判所に略式命令請求を行い、同月18日、科料9000円の納付を命ずる略式命令が出された。

Aへの処分通知書の送付と、ネット上での公開

告訴事件の場合、検察官の処分結果について、告訴人に「処分通知書」が送付される。子守氏を告訴したAに対しても、処分日の6月16日付けで、「処分区分 起訴」と記載された処分通知書が送付された(「略式請求」と、正式起訴の「公判請求」とは異なるが、処分通知書の「処分区分」としてはいずれも「起訴」となる)。

Aは、6月20日に、処理罪名を侮辱、被疑者名と検察庁の事件番号を「黒塗り」にしたT検事名義の告訴人「大森貴逸」宛ての処分通知書を、「北海道の歩き方」のXアカウントの冒頭に貼り付けて掲載し、本文に

【(祝)起訴されました(祝)】当アカウントを誹謗中傷した反斎藤派の「名前を言ってはいけないあの人」は神戸地検に【起訴】されました。

竹内嫌疑への誹謗中傷はやめるよう呼びかける一方で、斎藤知事や斎藤知事擁護派の人を誹謗中傷するダブスタはやめましょう。マスゴミもやぞ

と書いて、「起訴」されたのが子守氏であることを暗示した。

そして、福永活也氏が、同日午後9時5分に、

「書類送検どころか、子守康範氏が起訴されたという情報が入ってきましたが、本当ですか!?」

とのX投稿を行い、それを見た子守氏が、

「デマ拡散の魚拓いただきました。裁判所で会いましょう!」

とX投稿した。

こうして、「北海道の歩き方」のアカウントの運用者のAから情報や資料の提供を受けた福永氏が、SNS上で子守氏に「起訴」について質問し、それに反発した子守氏が「デマ拡散」などと投稿した。その後、福永氏は子守氏に対して名誉毀損による損害賠償請求訴訟を提起している。

福永氏は、Aから子守氏が起訴されたことが書かれた検察官名の「処分通知書」を送付され、それを根拠に、「子守氏起訴」は間違いないものと考えて、上記X投稿を行ったのであろう。

Aの目論見は、批判者の子守氏が「科料9000円を支払わされること」ではなく、「刑事罰に処せられた犯罪者、前科者として批判にさらすこと」だ。そのために、「検察官の処分通知書」が「告訴人」に対して送付されることは、格好の材料だった。しかし、その処分通知書の真正な書面をそのままネット上で公開すると、告訴人本人の氏名が記載されているので、「北海道の歩き方」のアカウント運営者Aの実名が公開されることになる。

そこでAが行ったのが、告訴人名を改ざんした「処分通知書」をX投稿で公開するという行為だった。

Aは、その日の夜に参加したXアカウントのスペースのライブ放送で、そこに参加した福永氏に、

大森さんの名前書かれていますよね、処分通知書に。だから「北海道の歩き方」さんが大森さんであることは、まあ見て分かるわけじゃないですか。

と聞かれて、

そこはボク、あの「大森」じゃないっす。これは釣りで入れました

と言って、「大森貴逸」が仮名であることを認めている。つまり、Aは、検察官名が記載され押印された処分通知書の宛先の「告訴人名」に記載された自分の実名を、仮名に改ざんして福永弁護士に送付し、ネット上で公開したのである。それによって、Aにとって、自分の実名を知られることなく、子守氏が起訴されたことをネット上で広く知らしめることが可能となった。 

しかし、以下に詳述するように、そのようなAの行為は、有印公文書偽造・同行使罪に該当する可能性が高い。つまり、Aの目論見は、「重大な犯罪行為」を行うことによって、初めて可能になるものだったのである。

Aの行為についての有印公文書偽造・同行使罪の成立

Aは、検察官作成名義の公文書である処分通知書の宛先の告訴人名欄に「大森貴逸」という文字を組合せて「別人宛の処分通知書」を作り上げた。

公文書の一部を改ざんして原本と異なる写真コピーを作成する行為については、公文書偽造罪の成立を認めるのが、最高裁判決(昭和51年4月30日)以降の確立した判例となっている。

同判決は、

原本の作成名義を不正に使用し、原本と異なる意識内容を作出して写真コピーを作成するがごときことは、作成名義人の許容するところではなく、また、そもそも公文書の原本のない場合に、公務所または公務員作成名義を一定の意識内容とともに写真コピーの上に現出させ、あたかもその作成名義人が作成した公文書の原本の写真コピーであるかのような文書を作成することについては、右写真コピーに作成名義人と表示された者の許諾のあり得ないことは当然であって、行使の目的をもってするこのような写真コピーの作成は、その意味において、公務所または公務員の作成名義を冒用して、本来公務所または公務員の作るべき公文書を偽造したものにあたるというべきである。

と判示している。

本件では、担当検察官は、告訴人のA宛てに、子守氏の「起訴」を通知する書面として送付したのであり、それをAが勝手に「大森貴逸」などと告訴人名を改ざんし、あたかも大森という人物が告訴人であるかのような内容の「処分通知書」が作成され、それがネット上で公開されることは、作成名義人である検察官の許容するところではないことは明らかだ。

また、原本に名前を貼り付けるなど、原本だけ見れば真正な文書と誤信しないような改ざんであった場合でも、それをコピーすることで、原本とは別個の文書を作り出すのであるから、文書の変造ではなくすべて偽造罪が成立するというのが判例(最決昭和61年6月27日)の立場である。

偽造公文書の「行使」とは、「偽造された公文書を真正に作成された公文書として人に認識させ、または認識可能な状態に置くこと」であり、Aが告訴人名を仮名に改ざんした担当検察官名義の「処分通知書」のコピーの画像を、真正な書面が存在するかのように他人に認識させるためにX投稿でネット上に公開する行為は「偽造公文書の行使」に当たると考えられる。 同じ「偽造公文書行使」でも、真正な文書と見分けがつかない偽造公文書の画像がSNS等で公開された場合、特定の相手に提示する場合と比較して拡散性が高く、公文書に対する信頼を失墜する程度が著しい。そういう意味で態様が極めて悪質な「偽造公文書行使」と言うべきであろう。

背景となった「被害者個人特定事項秘匿」と侮辱罪の法定刑引上げ

上記Xスペースで、Aは

「刑事だと被害者名が秘匿されるが、民事だと公開されるから、刑事告訴を選択した」

と述べている。被害者名が秘匿されることを前提に、刑事告訴を選択したようだ。

被害者の個人特定事項秘匿制度は、2024年(令和6年)2月施行の改正刑事訴訟法で導入されたもので、性犯罪等の事件について、逮捕、勾留、起訴にあたって被害者の個人特定事項(氏名及び住所その他の個人を特定させることとなる事項)を被疑者・被告人に明らかにしないまま刑事手続を進めることが可能になった。

略式請求についても、検察官の請求により、裁判所が、個人特定事項の秘匿措置をとるかどうかを判断する。

被害者の個人特定事項の秘匿制度の対象となるのは、原則として、性犯罪、児童買春、児童ポルノ関連事件など、被害者のプライバシーの保護が強く求められる事件である。その他に、「犯行の態様、被害の状況その他の事情により、被害者の個人特定事項が被告人に知られることにより」「被害者等の名誉又は社会生活の平穏が著しく害されるおそれ」「被害者若しくはその親族の身体若しくは財産に害を加え又はこれらの者を畏怖させ若しくは困惑させる行為がなされるおそれ」も対象に加えられている。

既に述べたように、「北海道の歩き方」アカウントにおけるAのSNS投稿に対しては、ネット上で大きな反発・批判が生じており、アカウントの運用者のAの氏名等が公開されると、A自身に厳しい批判が殺到することは必至だ。そういう意味では、「被害者等の名誉又は社会生活の平穏が著しく害されるおそれ」に当たるとされる可能性はある。その場合、起訴状の被害者の記載は匿名化され、被害者の証人尋問が行われる場合も、性犯罪被害者のようにビデオリンク方式で、法廷外とつないで行うという措置がとられることになる可能性がある。

しかし、Aが「北海道の歩き方」と称する匿名アカウントで行ってきた所業の悪辣さからすれば、それに対して「当然の批判」を受けたことに対して法がこれ程までに「手厚い保護」を行うことが、常識をわきまえた市民として納得できることであろうか。

「北海道の歩き方」における悪辣な投稿は、法的保護に値するのか

Aが子守氏の発言に対して告訴を行うという「法的手段」をとる行動に出たのは、「被害者」の氏名が秘匿されるという個人特定事項の秘匿措置がとられることを見越し、刑事告訴という手段を選択することで、自らは実名を出さず、悪辣な投稿による批判を免れ、被告訴人の処罰だけを求めることができると考えたからだ。

このようなAの告訴を、警察、検察は、なぜかまともに取り上げ、子守氏は侮辱罪に当たるとされて、科料9000円とは言え、略式命令による刑事処罰の対象とされた。

AのX投稿の不当性、反社会性の程度からすれば、子守氏の発言は、公正な論評や公益目的の言論といえ、刑法35条の正当行為として違法性を欠くと判断する余地が十分にあり、不起訴処分にすべきだった。

検察官がその子守氏を略式請求したのは、侮辱罪の法定刑引上げで求刑処理基準が引き上げられていることに加え、非公開の略式手続で9000円の科料で決着するのであれば、子守氏が受ける不利益は極めて僅少であり、不起訴処分に対して、Aの検察審査会への申立で騒ぎが長引くより子守氏にとっても有利と考えたからであろう。

しかし、Aは、子守氏の刑事処分が非公開の略式手続で終わっただけで済ますつもりはなく、「子守氏が起訴されたこと」をネット上で拡散しようと考えていた。そのため、斎藤派の弁護士の福永氏に連絡する一方、検察官から送付された検察官の実名と押印のある処分通知書を、自分の氏名が記載された部分を改ざんして「北海道の歩き方」のXアカウントで公開することによって「子守起訴」の事実をネット上で広めようとしたのである。

少なくとも、現時点までは、Aの目論見どおりに進んでいる。 

SNS時代における「侮辱罪法定刑引上げ」「被害者個人特定事項秘匿制度」の運用

2022年7月施行の刑法改正で「侮辱罪」の法定刑が引き上げられ、それまでは「拘留・科料のみ」だったのが、改正により「1年以下の拘禁刑・30万円以下の罰金」が加わったのは、SNSやインターネット上での悪質な誹謗中傷が社会問題化し、被害者が深刻な精神的ダメージを受けたり、自殺に追い込まれたりする事件が発生したことを受け、国民の間で誹謗中傷を抑止すべきとの意識が高まったことが背景となったものだ。それにより、それまで、殆どが起訴猶予で済まされ、悪質なものでも科料で済まされていた侮辱罪が、原則として科料以上の量刑となった。

しかし、本件の「北海道の歩き方」のAのように、匿名アカウントを利用して、非常識極まりない悪辣な投稿を行うアカウントの運用者の「外部的名誉」を保護することが、侮辱罪の法定刑引き上げの趣旨・目的に沿うものとは到底思えない。

刑訴法改正による被害者個人特定事項の秘匿措置の導入も、性犯罪やストーカー犯罪などの被害者が、刑事手続きにおいて氏名や住所などの個人特定事項を容疑者や被告人に知られることで、報復や再被害、名誉毀損、社会生活の平穏を害されるリスクを軽減することを目的とするものである。Aのような非常識な投稿を繰り返しているSNS匿名アカウントの運用者を保護することは、法改正の目的から大きく逸脱している。

このような人物が、そのような投稿に対して侮辱的言辞で批判を行った人物を侮辱罪で告訴し、起訴された場合にまで、「被害者等の名誉又は社会生活の平穏が著しく害されるおそれがある」との要件で個人特定事項の秘匿措置が認められるとすると、匿名アカウントの非常識な投稿に批判が殺到していることも「社会生活の平穏が著しく害される」という要件を充たすことになり、自らは匿名のまま、批判者の処罰を目論むことができることなる。

子守氏が正式裁判を申し立てた侮辱罪の刑事公判は、簡易裁判所から地方裁判所に移送され、神戸地裁に係属している。

ここで、被害者個人特定事項の秘匿措置を認めるなどということはあってはならないことである。Aの身勝手な目論見はは、決して法が許容するものではなく、告訴人として子守氏の処罰を求めたAの実名を明らかにされ法廷で公開されることを当然に覚悟させるべきだ。

略式手続で科料の略式命令を受けた子守氏を、犯罪者扱いするために、処分検察官の実名が記載された処分通知書という検察実務の根幹に関わる公文書を改ざんして、本来は非公開であるはずの略式手続の結果をネット公開したことは、検察にとって絶対に看過できない問題だ。しかも、子守氏のYouTubeでの発言は、匿名アカウントによるあまりに非常識な投稿に対するものであり、正当な意見・論評として違法性を否定する余地は十分にあった。

そのような告訴人の人物の所業や目論見がわかっていたら、侮辱罪の法定刑引上げ後であっても、検察官が「起訴」の判断を行うことはなかったはずだ。

検察官は、「北海道の歩き方」の匿名アカウントの運用者のAに騙されたとも言える。

神戸地検がまず行うことは、被害者個人特定事項の秘匿措置の適用の是非を再検討するとともに、自らが作成者である公文書が改ざんされて公開された被害者の立場でもあるAの有印公文書偽造・同行使罪に対して厳正な処分を行うことである。

その上で、そのようなAの告訴による子守氏への公訴提起を維持すべきか否かについても、検察の組織としての検討が行われるべきであろう。

「匿名アカウントに対する侮辱」を刑事処罰の対象とすることの根本的問題

この事件は、侮辱罪の法定刑引上げの刑法改正、被害者特定事項の秘匿措置導入の刑訴法改正が、SNSの社会的影響の飛躍的増大という状況の中で、法の趣旨とは大きく異なる方向に悪用されかねないことを示す事例であり、今後の法運用に関わる極めて重要な問題を提起するものと言える。

SNS上で「悪ふざけ投稿」が、面白おかしく取り上げられて、一部の人間に楽しまれる、それはそれで勝手にやればよいことだ。しかし、そのような匿名投稿が限度を超え、人の名誉や尊厳を傷つけたり、著しい不快感を生じさせたりした場合、それに対して相応の批判が行われるのは当然であり、その表現も相当程度までは許容しなければバランスが取れない。そのような「当然の批判」から匿名アカウントを保護することに司法が利用されたり、検察が手を貸したりすることなど決してあってはならない。

根本的な問題として、SNS上の「匿名アカウント」を侮辱罪による保護の対象とすべきかについて、抜本的な検討が必要なのではなかろうか。

法の穴を潜り抜ける悪辣な行為を繰り返し、一方で、それに対する攻撃を司法の力で守ってもらおうなどという発想は、健全な社会人の常識からは思いもよらないものである。このような状況が野放しになっている現状は、まさに「法と正義の危機」というべきである。

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長崎県大石知事「政治資金問題説明会見」へのコメント

長崎県大石賢吾知事検察審査会申立書で、申立書を公開しましたが、これに関して、本日10月24日、大石知事が記者会見で説明を行ったので、それについて以下のコメントをマスコミに公表しました。

~~~                       

本日(10月24日)、大石知事が行った「一連の政治資金に関する事案についての説明会見」での説明について、検察審査会に審査申し立て中の大石知事の政治資金規正法違反事件の告発人および大石健吾講演会の元職員の代理人弁護士の立場で、以下のとおりコメントします。

1.「2000万円の2重計上に気づいたのはいつなのか」との質問につ いて、大石知事が「以前、元監査人と報道されている方のご指摘を受けてのこと」と認めた件について

この点について、大石知事は、「昨年6月9日のzoom会議の音声が流出した際、3月の会見で知事は、こういった会話は記憶していると話していたが、少なくともその時点では2重計上があるっていうのは理解していたということか」と質問され、

2重計上で、どちらが誤りであること、しっかりと精査をして、弁護士も含めて精査した上で、やはりこれは間違いだということを確認したのは、ちょっと後になります。ただ、その2000万円が2つあるよということがあって、私が確かに1つしかありませんと、それが2つあるのであれば間違いですと言ったのは、かつて監査人と呼んでいた方から言われたことに対して返答はさせていただいています。

と述べ、「二重計上」を最初に認識したのが「①元監査人の指摘」であることを認め、その後、「②弁護士を交えた精査」によって適正な処理を行ったと説明した。

これまで大石知事が説明してきたように、収支報告書に記載した時点から「2000万円の後援会への貸付金は実在し、架空ではない」と認識していたのであれば、「二重計上」を最初に認識した時点でも、「収支報告書の記載の誤り」の問題と考え、「収支報告書の適正な記載」を検討することになるはずである。問題は、①の時点で、どのような問題だと認識し、どのように対応しようとしていたのかである。

この点について、記者から、「2重計上を分かっていながらその場で訂正をしなかったこと」「不正な出金という知事が言っている流れの中で、訂正をするような動きではなかったこと」について質問され、

何が適正であって、何が誤りであるのか、しっかりと精査した上で、専門家を交えて精査をした上で正確に直す事実確認のために時間がかかった」「監査人と呼んでいた人に対して、もし誤りがあるのであれば適正に直していきたい、正確なものにしていきたいとお願いしていたし、それを実際に具体的に正確にやっていただける方だという風に私は信頼をしていた。」

と答えている。

「専門家を交えて精査をした上で正確に直す事実確認のために時間がかかった」というのは②の時点のことである。

①の時点で、元監査人は、「後援会への2000万円の貸付金は架空計上」と指摘し、そのままでは重大な問題になりかねないと言って、「返金スキーム」を提案したものであることは明らかであり、少なくとも、その後の弁護士を交えての②のような政治資金収支報告書等の適正処理についての対応の検討ではない。

問題は、①の時点で「監査人と呼んでいた人に対して、もし誤りがあるのであれば適正に直していきたいとお願いしていた」のかどうかであるが、この時点の直後、大石知事も関わる形で、後援会の資金を監査人側に移動させた事実があり、それは、「不正の出金」であるかどうかは別として、大石後援会の政治資金収支報告書の記載を訂正ではなく、貸付金の返済として大石知事が後援会から受け取っていた約650万円を後援会に返金するためのものであることは明らかである。上記の記者の質問は、この点を指摘するものだが、大石知事の答は、それに対してはする説明になっていない。

2000万円の貸付金を後援会の収支報告書に記載した時点で、大石知事が、「2000万円の貸付金が架空計上ではなく、実在している」と認識していたのであれば、最初に「元監査人」から指摘された時点で、そのように説明していたはずである。「後援会への返金」の話が出てくることはあり得ない。

その時点で、元監査人に対して「後援会への貸付金は架空計上」と認めざるを得なかったのであり、それは、収支報告書の2000万円の貸付金が架空であり、その記載が虚偽であることの認識があったことを認めたことに等しい。

2 「2000万円の消費貸借契約書の日付が2日ズレている問題について

大石知事は、記者から「元職員の方が、ご自身がコンサルタントに間違いなく正確な2000万円の入金を1月14日と伝えたと主張されていて、コンサルタントが意図的に2日ずらしている。これは同一と思われないようにするためではないかと主張されている」ことについて質問を受け、

どういった主張されているのか私はわかりませんけども、それにコメントは全くありません。私の見解、認識としては、前回説明をした通り。12日のところで、通帳を見ますと、12日に入金の、別の入金の項目があり、それが一段上になってたので、おそらくそれが誤って伝わったんじゃないかなと私は思います。

と答えた。

この点は、質問が若干不正確であり、検察審査会申立についての記者会見の際に述べたとおり、元職員は、「入金日を誤って伝えることはあり得ない」「選挙コンサルタントから『知事が選挙で用意した自己資金1月14日借入の2000万と別に用意したお金で貸付けたものと認識させるため、わざと日付を令和4年1月12日にしています』との説明を受けた」旨供述しているものである。

それについて、大石知事が「コメントが全くない」ということは、選挙コンサルの説明も含め、元職員の具体的な記憶に基づく供述を否定する根拠がないということであり、1月12日の後援会への2000万円の貸付金が1月14日の実際の入金とは別個のものだったことは否定できないということである。

なお、この点に関して、大石知事は、「元職員から話を聞く必要があると思っており、後援会の方から、元職員の方に事実の確認をしたいということでお尋ねをしているが、対応していただけてない」と述べているが、9月16日に、元職員のところに大石賢吾後援会からの配達証明の郵便物が届き、大石後援会との関係は、すべて代理人の当職に対応を委任し、そのことは、後援会宛てに受任通知を送って通告しているのに、直接、後援会から配達証明で郵便物が届き、「改めて対面で話を聞かせてほしい」などと書かれていたことから、後援会側に問い質したところ、後援会の担当者の話では、後援会の代理人弁護士がそのような質問状を作成して元職員宛てに送付したとのことだった。

当職からは後援会に代理人受任通知を送付しているのに直接当事者に連絡したことについて厳重に抗議をした。その後、後援会側からは全く連絡はない。大石知事が、「元職員の方に事実の確認をしたいということでお尋ねをしているが、対応していただけてない」というのは事実に反する。

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